日本による米国債売却は、本当に交渉カードになり得るのか——財務省高官が自らその線を消しにかかった。ブルームバーグが2026年5月18日に報じたもので、約1兆ドルを超える世界最大の米国債保有国・日本の当局者が、売却の現実性に公式に疑義を呈したかたちとなった。
「最終兵器」は1兆ドルの重さで動けない
日米関税交渉が続くなか、市場の一部では「日本が米国債売却をちらつかせれば、ワシントンを揺さぶれる」という観測が根強くあった。保有残高の規模が規模だけに、売却に動けば米長期金利が急上昇し、米国の財政コストを直撃するシナリオは理論上ありえる。
ところが今回、財務省幹部が自ら「難しい」と言い切った。ここが引っかかった点で、普通は否定も肯定もしないのが外交上の定石だ。あえて否定したということは、「そのカードは切れない」というメッセージを市場と米国に向けて発信した可能性が高い。
A senior Japanese Finance Ministry official sowed doubt over any prospect of Japan selling its US Treasury holdings.(Bloomberg, May 18, 2026)
日米関税交渉カードとして語られてきた米国債売却だが、現実には売り手側に構造的な足かせがある。大量売却が始まれば、ドルが売られ円が買われる。輸出依存度の高い日本の製造業にとって円高は利益を直撃する。さらに、国内の年金資産は外債で運用されている部分が大きく、ドル安は資産価値の目減りにもつながってしまう。
財務省が「売れない」と認めた日の意味
加えて、もっと大きな問題がある。米国債の大量売却はドル基軸通貨体制への信頼を揺るがしかねない。日本自身が恩恵を受けてきた国際金融秩序を壊しに行くことになる。「敵に打撃を与える武器が、自分の足元も吹き飛ばす」という状況で、それを「使う」と言い続けるのはさすがに無理があったらしい。
財務省保有残高の規模が大きければ大きいほど、逆説的に「使いにくさ」が増す。これを今回の発言が裏付けた格好だ。市場では一時、米国債売却観測が浮上するたびに円相場や米長期金利が反応していたが、今後はその「噂だけで動く」局面も収束していきそうだ。
この先どうなる
日米関税交渉は依然として続いており、日本側は別の交渉カードを探すことになる。農産物の輸入拡大や防衛費関連の米国製品購入など、貿易赤字の縮小につながる具体策が俎上に載りやすくなるんじゃないか。米国債売却という「核オプション」が封印された以上、交渉は地味だが実質的な取引の積み上げに移行していく見通し。ただし、交渉が行き詰まった際にまた「売却カード」が浮上するリスクはゼロではなく、市場の警戒感がどこまで解けるかは今後の発言次第といったところ。