ホルムズ海峡の船舶通行数が、ここ数週間で目に見えて落ち込んでいる——Bloombergが追跡データをもとに報じた内容を見て、そこで引っかかったのが「なぜ今、暗号通貨なのか」という点だった。

世界の原油輸送量の約20%が通過するこの海峡。欧米の主要保険会社が対イラン制裁の強化を受け、イラン関連航路への保険引き受けを事実上停止したことで、外国船にとってここを通ること自体がリスクになりつつある。保険なしで航行する船はほぼない。つまり「保険が消えた航路」は、静かに機能不全へと向かう。

暗号通貨で保険を発行——制裁網に空いた穴

そこでイランが目をつけたのが、暗号通貨を使った独自の船舶保険スキームだという。ドルや国際送金網(SWIFT)を経由しなければ、欧米の金融制裁はかなりの部分をすり抜けられる。ブロックチェーン上で保険契約を結び、暗号資産で保険料と保険金をやり取りする——理屈の上ではあり得る話で、だからこそ厄介らしい。

「イランが暗号通貨を用いた保険スキームを開発中との報道が流れる中、ホルムズ海峡を通過する外国船の数が激減している」(Bloomberg、2026年5月18日)

イラン 暗号通貨 保険の組み合わせが現実になれば、欧米が数十年かけて積み上げてきた金融制裁の有効性そのものを問い直すことになる。制裁の効き目は「決済網の掌握」にあったわけで、そこをデジタル資産でバイパスされると、ゲームのルールが変わってしまう。

日本の原油調達、迂回ルートは現実的か

原油輸送 制裁回避の動きが加速した場合、最も神経をとがらせるのはアジア側の輸入国だろう。日本の原油輸入の約9割は中東依存で、ホルムズ海峡はその大動脈にあたる。代替ルートとして名前が挙がるのはアラビア半島を迂回するパイプラインや、ロシア経由の北方ルートだが、いずれもコストと政治的リスクの両面で現実的とは言いにくい。

今すぐ供給が止まるわけではないにしても、保険市場の機能不全が長引けば、タンカーの運賃と保険料が連動して上昇する。それがジワジワとエネルギーコストに転嫁されていく——という経路がいちばん現実に近いシナリオかもしれない。

この先どうなる

焦点は二つ。イランの暗号通貨保険スキームが実際に稼働するかどうか、そして欧米当局がそれをどう阻止するかだ。米財務省はすでに暗号資産を使った制裁回避への監視を強めており、スキームが表に出た時点で関与企業や取引所への二次制裁が発動される可能性は高い。一方、匿名性の高いブロックチェーンを完全に封じるのは技術的に難しく、「いたちごっこ」になる公算もある。ホルムズ海峡の船舶通行データは、この攻防のリアルタイム体温計になりそうだ。当面、タンカー市場と原油価格の動きから目が離せない。