ヤナ・ラントラトワが「国民の権利を守る番人」として就任したのは今年のこと。その肩書きとは真逆の疑惑が、ウクライナ当局から突きつけられている。占領下ウクライナから身元も定かでない乳児の女の子を、自党の党首が違法に養子縁組するのをラントラトワが主導的に動かした、というものだ。
乳児は「どこから来た子」なのか
ウクライナ当局の主張を追うと、問題の核心が見えてくる。子どもの出自が明らかでないまま手続きが進んだ、という点だ。占領地域では戸籍管理が混乱し、親や家族と引き離された子どもが「行方不明」のまま処理されるケースが報告されている。その流れに乗る形で、政党指導者への養子縁組が実行されたとすれば、これは個人の違法行為ではなく、組織的な関与を示唆することになる。
「ヤナ・ラントラトワは、自党の党首がロシア占領下のウクライナから乳児の女の子を違法に養子縁組するのを主導的に支援した」——ウクライナ当局(The New York Times報道より)
ラントラトワ本人はこの疑惑に対し、公式な反論を出していない。ロシア政府側の反応も現時点では確認されていない。
ICC逮捕状との接点——リボワ=ベロワ事件が「前例」になった
この疑惑が単なる一事件として処理されにくい理由は、既存の捜査との重なりにある。国際刑事裁判所(ICC)は2023年、プーチン大統領とロシア側の子ども担当委員マリア・リボワ=ベロワに対し、ウクライナの子どもたちを強制移送した疑いで逮捕状を発行済みだ。ウクライナ子ども強制移送をめぐるICC逮捕状はすでに国際社会に衝撃を与えたが、ラントラトワをめぐる今回の疑惑は「それと同じ線上にある動き」とウクライナ当局は指摘している。つまり、リボワ=ベロワが担ってきた役割を、後任格のラントラトワが引き継ぐ形で継続していた可能性だ。ウクライナ側は、組織的な構造がさらに深く広いことを示す事案だと述べている。
ロシアが「人権」を冠する役職に、このような疑惑を持つ人物を据えているとすれば、役職名そのものが対外的な偽装として機能していることになる。そこが今回、調べていて一番引っかかった部分だった。
この先どうなる
ICCはリボワ=ベロワへの逮捕状をすでに持っている。ラントラトワへの捜査がウクライナ当局からICC検察局に正式に申し立てられれば、逮捕状の対象者がさらに広がる展開もあり得る。ただ、ロシアはICC規程の締約国ではなく、執行には限界がある。それでも国際的な指名手配という事実は、ラントラトワの外交活動を大きく制約するはず。「人権委員長」として国際会議に出席した途端に拘束リスクが生じる、という皮肉な状況が待っているかもしれない。
