モスクワ ドローン攻撃が今回また確認された夜、ロシアの首都市民は爆音で目を覚ました。APの報道によれば、閃光と衝撃音を目撃した市民の証言が相次いでいる。プーチン政権は「迎撃に成功した」と発表したが、その言葉が出てくること自体、何かが都市圏に到達したことを物語っている。
過去1年で急増、着弾地点が「首都中心部」に近づいた理由
ウクライナによるモスクワ周辺へのドローン侵入は、過去1年で複数回確認されている。ただ今回が際立つのは、その頻度と着弾地点の近さだ。これまでモスクワ郊外の工業地帯や軍関連施設が標的とされてきたが、市民が「爆音を聞いた」と語るエリアは徐々に中心部に近づいている。
ウクライナが使用するドローンは、長射程の自爆型無人機が中心とみられる。GPS誘導と低高度飛行を組み合わせることで、ロシア防空網の盲点をついてきた。ロシア側が誇る対空ミサイルシステム「S-400」も、小型・低速の無人機に対しては万能ではない——これが軍事アナリストの間で繰り返し指摘される点だ。
「ウクライナによるモスクワへの攻撃は、戦争がロシア人にとってもはや遠い出来事ではなくなっていることを示す、またひとつの証拠だ。」(The Associated Press)
この一文が刺さるのは、ロシア国内の情報統制という文脈があるからだろう。国営メディアは開戦以来、戦場を「遠くのこと」として報じてきた。ところが首都で爆音が鳴れば、テレビを消してもSNSに映像が流れる。その映像を見た市民が、政府発表と自分の目で見た現実のギャップに気づき始める——それが今、ゆっくりと進行しているらしい。
ウクライナの「もう一つの戦場」、ロシア世論という標的
ウクライナ側の狙いが軍事施設の物理的破壊だけにないことは、攻撃パターンから読み取れる。モスクワへのドローン攻撃は、軍事的な損害は限定的でも、「首都が攻撃された」という事実をロシア国内に刻み込む効果を持つ。
戦争を「他国の出来事」として消費してきたロシア市民の日常に、じわりと亀裂が入り始めている、とAPは表現している。徴兵の知らせ、物価上昇、そしてドローンの爆音——それぞれ単体では「我慢できる不満」でも、重なればどこかで臨界点を超える。ウクライナ側はそのタイミングを、意識的に早めようとしているんじゃないか。首都攻撃がそのための手段としての側面を持つとすれば、これはロシア市民という「もう一つの戦場」への作戦だとも言える。
ロシア防空網が完全に機能していないことが繰り返し露呈するたびに、政府への信頼は少しずつ削れていく。モスクワ ドローン攻撃が「心理戦」として機能し始めているとすれば、その効果測定はロシア国内の世論調査ではなく、市民のSNS投稿や脱出件数に現れるかもしれない。
この先どうなる
ロシア側は防空体制の強化を急ぐとみられるが、ドローン技術の進化スピードと物量投入を考えると、完全な迎撃体制の構築は容易ではない。一方ウクライナは、西側から供与される長射程兵器と自国製ドローンを組み合わせ、攻撃の多様化を続けるだろう。モスクワへのドローン侵入が「日常的なニュース」になる日が来るとすれば、それ自体がすでにウクライナの戦略目標の一部達成を意味する。プーチン政権がどこかで「勝利」を演出せざるを得ない政治的圧力が高まるほど、停戦交渉のテーブルが近づく——そんな見方も出始めている。ただ、そのテーブルがいつ、どんな条件で設置されるかは、まだ誰にも読めない局面だ。