ホルムズ海峡封鎖が現実になった瞬間、最初に動いたのは産油国ではなくシリアの地図だった。世界の石油輸送量のおよそ20%が通過するこの海峡が事実上閉鎖状態に陥り、湾岸諸国は代替ルートを血眼で探し始めた。その視線が向いた先は、長年の内戦で疲弊しきっていた国——シリアだ。

湾岸の石油が「シリア経由」になる日

シリアが突然注目を集めた理由は、地図を一枚見れば分かる。サウジアラビアやイラクの油田地帯から地中海沿岸まで、陸上パイプラインで抜けられる経路がシリア国内を通っている。ホルムズを迂回する選択肢が限られるなか、この地理的条件が一気に「資産」に変わった格好だ。

内戦前にも同様の構想はあった。イラクからシリアを経由してトルコや地中海に抜ける「イラク=シリア=地中海パイプライン」計画は、紛争勃発で棚上げになっていた経緯がある。それが封鎖という外部ショックで、再び引き出しから取り出されたらしい。

「中東の最新の戦争は、シリアの地理的条件を背景に、同国に新たな経済的機会をもたらした」(The New York Times)

通過収入、雇用創出、インフラ投資——シリア新政権にとって、これほどタイミングのいい「棚ぼた」もそうはない。ただし、パイプラインの復旧や安全保障の確保には時間と資金が必要で、「すぐ動く」とはいかないのが現実だ。

アサド後の新政権に、なぜ各国が急接近しているのか

面白いのは、各国の動きの速さだ。シリア石油ルートの価値が浮上したとたん、国際社会はバシャル・アサド後の新政権との関係正常化に向けた「実利計算」を急ぎ始めたと報じられている。数年前まで制裁と孤立の象徴だった国が、封鎖ひとつで外交の優先リストに躍り出た。

湾岸諸国にとっても、シリアルートは単なる石油の話じゃない。ホルムズ封鎖が長引けば、エネルギー輸出の停止は国家財政に直撃する。サウジアラビアがすでに保有するヤンブーへの西岸パイプラインなど既存の代替手段は容量が限られており、シリア経由の新ルート整備は「保険」として機能しうる。中東エネルギー地図の書き換えが、静かに始まっている。

この先どうなる

封鎖が短期で解除されれば、シリアへの関心は冷めるかもしれない。けれど、ホルムズ依存の脆弱さが今回これほど可視化された以上、代替ルートの整備を止める理由は乏しい。シリア新政権がこの「地政学の棚ぼた」をどこまで実利に変えられるかは、治安の安定と国際投資の呼び込みにかかっている。内戦の廃墟の上に、石油パイプラインが走る未来——可能性としては十分ある話だと思う。