トランプとイラン核交渉が、ここにきて一気に緊張の頂点へ向かっている。イランの核濃縮レベルはすでに60%超――兵器級とされる90%まで、技術的な距離はそれほど遠くない水準だ。トランプ大統領は「時計は動いている」と公言し、核プログラムの完全放棄か軍事行動かという二択を突きつけた。だがイラン側はこの圧力をはねのけ、むしろ交渉の場で要求水準を引き上げている。

イラン核濃縮60%超——「完全廃棄」要求との溝が埋まらない

交渉の行き詰まりを理解するには、双方の立ち位置を整理しておく必要がある。トランプ政権が求めているのは、核兵器に転用できる全プログラムの完全廃棄。それに対してイランは、民生用の核開発権を絶対に手放さないという姿勢を崩していない。

核濃縮60%という数字が出たとき、多くの専門家が「これは交渉カードだ」と見ていた。濃縮度を上げることで「交渉しないなら核保有に向けて進む」という圧力をかける古典的な手法。ただ、これを続けるほど軍事行動の口実にもなるという皮肉な構造がある。

「トランプ大統領はイランに対し、核プログラムをめぐる自らの条件を受け入れなければ戦争の再燃に直面すると迫っている。力をつけたイランはトランプの要求を拒絶している。」(The New York Times)

「力をつけた」という表現が興味深い。ガザ停戦が不安定なまま続き、フーシ派が紅海攻撃を継続している現状は、イランの影響力が中東全体に及んでいることを示している。それがイランの交渉姿勢を硬化させている一因らしい。

ホルムズ海峡封鎖リスク——原油価格より怖い「物流の寸断」

この対立が単なる外交問題にとどまらない理由が、ホルムズ海峡封鎖リスクだ。同海峡は世界の石油輸送の約20%が通過する咽喉部。ここが封鎖されれば、中東産の原油に依存するアジア諸国――日本も例外ではない――のサプライチェーンが直撃を受ける。

原油価格の急騰だけじゃなく、タンカーの航路変更コスト、保険料の跳ね上がり、そして製造業の原材料調達への影響まで連鎖する。2022年のロシア・ウクライナ戦争でエネルギー価格が世界経済をどれだけ揺さぶったかを思えば、ホルムズ封鎖のシナリオは桁が違う。

イラン核濃縮60%という数字と、ホルムズ海峡封鎖リスクという二つのワードが同時に浮上しているいま、市場が完全に無視し続けられるかどうか、怪しくなってきた。

この先どうなる

直近の焦点は、オマーンを仲介とした間接交渉が続くかどうかだ。過去にも米イランは直接対話を避けながら第三国経由で妥協点を探ってきた経緯がある。ただ今回、イラン国内の強硬派が交渉に難色を示しており、指導部が柔軟姿勢をとりにくい政治環境になっているとも伝わる。

トランプ政権にとっても、中間選挙を視野に入れたタイミングで軍事行動に踏み切るのは政治的コストが高い。「時計は動いている」という言葉が本気の警告なのか、交渉を動かすためのレトリックなのか——その読み合いが、しばらく続きそうだ。