シベリアの力2号をめぐる交渉で、いまもエネルギー価格の決定権は習近平の側にある――Bloombergがそう報じたのは、プーチン大統領の訪中直前というタイミングだった。年間380億立方メートルという規模の契約。それだけの数字が動く話でも、ロシアは値段を自分で決められない立場に置かれているらしい。

プーチンが「お願いする側」になった理由

もともとロシアのガス輸出はヨーロッパ向けが主力だった。ウクライナ侵攻後の制裁でその市場を事実上失い、イランとの戦争状態が続く中東情勢も重なって、欧米への回帰はほぼ見通せない。残る大口顧客といえば中国くらい、という状況になっている。

そこに中国側がうまく入り込んでいる。買い手が一社しかいないなら、その一社が価格をコントロールできる。ビジネスの基本原則がそのまま国家間の資源交渉に現れている格好だ。

「ロシア大統領が今週北京を訪問する際、パイプライン交渉が議題に上る見通し」(Bloomberg)

プーチン訪中2026で最優先議題のひとつになるとされるシベリアの力2号だが、訪中前からすでに「習近平が上手」という報道が出ているのは、ロシア側の焦りを間接的に示しているともいえる。

380億立方メートルで何が変わるか

契約が成立した場合、中国はロシア産ガスを格安かつ長期固定で手に入れることができる。エネルギー輸入コストを抑えながら、ロシアを事実上の供給依存国として縛り続ける構造が生まれる。

ロシア中国ガスパイプラインとして既存の「シベリアの力1号」は2019年に稼働しているが、2号は規模も路線も別格。モンゴル経由のルートが有力で、完成すれば中央アジアのエネルギー地政学そのものが書き換わる可能性がある。

ただ、交渉が長引いているのには理由もある。中国としては焦る必要がない。時間をかければかけるほど、ロシア側の選択肢は狭まっていく。プーチンが「今週の訪中で決める」と意気込んでも、価格で折り合わなければ中国は笑顔でお茶を出して終わりにできる立場にある。

この先どうなる

今回の訪中で契約の枠組みが合意されたとしても、価格条件の詳細は非公表になる可能性が高い。ロシアとしては「合意した」という実績が欲しく、中国は「格安を確保した」という中身が欲しい。発表の見た目と実際の条件が乖離するケースは過去にもあった。

中長期的には、欧州市場を取り戻せないままロシアが中国依存を深めるほど、習近平の交渉カードは増え続ける。シベリアの力2号の値段交渉は、ロシアが「いくらで売るか」ではなく「中国がいくらで買うか」で決まる時代の始まりを示しているのかもしれない。