ブンディブギョウイルス——その名を聞いたことがある人は、まだ少ないだろう。承認された治療薬もワクチンも存在しないこのウイルスが、コンゴ民主共和国東部で静かに広がっている。WHOは現地時間2025年、コンゴ東部イトゥリ州のエボラ出血熱アウトブレイクに対し「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を正式に宣言した。疑い例246件、死者80人——ただしWHOが最も気にしているのは、その数字ではなかったりする。
246例という数字より怖い「見えない感染」
WHOの声明が異様なのは、数字を示しながら「これは氷山の一角かもしれない」と明言している点だ。
「現在検出・報告されているものよりはるかに大規模な感染拡大の可能性があり、地域的な拡散リスクも高い」——WHO声明より
実際、ラボで確定診断された件数はわずか8件。残りの238件は「疑い」のまま宙に浮いている。イトゥリ州の州都ブニア、そして金鉱山の町モングワルとルワンパラという3つの保健ゾーンにまたがって感染が確認されているが、金鉱山の町という性格上、人の流入・流出が激しい。感染経路として鉱山労働者の移動が浮上しているのは、偶然じゃない。
さらに首都キンシャサでも1件。イトゥリから戻った患者とされている。コンゴの国内移動がそのまま感染の足跡になっている格好だ。
ウガンダ越境・ワクチンなし——エボラ緊急事態宣言が「過去最悪」と違う理由
コンゴのエボラといえば、2018〜2020年の流行が記憶に新しい。あのとき約2,300人が死亡したが、当時はザイールウイルス株だったため、既存のワクチンと治療薬が使えた。今回は違う。ブンディブギョウイルスに対して、現時点で承認された対抗手段が何もないというのが最大の違いだ。
加えて国境を越えた。ウガンダ当局が確認したのは、木曜日に死亡した59歳のコンゴ人男性の陽性反応。エボラ緊急事態宣言が東アフリカ全体の問題になった瞬間でもある。症状は発熱・筋肉痛・倦怠感から始まり、嘔吐・下痢・皮膚出血へと進行する。感染から発症までの間に人が動けてしまうのが、封じ込めをこれほど難しくしている。
この先どうなる
PHEICの宣言はWHOが持つ最も強い警告レベルのひとつで、各国政府や援助機関が動く法的・外交的な根拠になる。ただし宣言が出たからといって、即座にワクチンが届くわけではない。ブンディブギョウイルス向けの候補ワクチンは研究段階にあるものの、臨床試験を経た承認品はまだない。今後の焦点は、緊急使用目的での未承認薬投与の承認プロセスをWHOがどう加速させるか、そしてコンゴ・ウガンダ国境での人の流れをどこまで管理できるか、という2点に絞られてくる。コンゴ東部イトゥリの感染状況がこの先数週間で急速に可視化されるか、あるいはさらに「見えない感染」が広がるか——それが今、分岐点にある。