グローバル在庫争奪戦が、静かに、しかし制御不能な速度で始まっている。Bloombergが報じた内容を追ってみたら、肥料・穀物・半導体・燃料という基幹物資の全カテゴリで、企業と政府による前倒し囲い込みが同時多発的に起きていた。イラン戦争の長期化とホルムズ海峡の緊張が引き金だが、問題はそのリスクヘッジ自体が新たなリスクを生みつつあるという皮肉な構図だ。
ミシシッピ州ローズデール港で起きていること
ミシシッピ州ローズデール港。ここで農業用肥料の積み出しが平時の数倍ペースで続いており、港湾はすでに飽和状態に近いという。現地の映像では、肥料の混合物がトラックへ次々と積み込まれる光景が映し出されていた。
「イラン戦争の影で世界規模の在庫争奪戦が激化している」(Bloomberg、2026年5月16日)
なぜここまで急ぐのか。ホルムズ海峡を経由する石油・化学品の輸送ルートが完全には正常化していない以上、調達側が「待てない」と判断するのは合理的に見える。だが全員が同じ計算をした結果、物流網に異常な負荷がかかっている状態が今だ。
サプライチェーン崩壊の入り口を、全員で踏み抜く可能性
ここが引っかかった。在庫の積み増しは個社レベルでは正しいリスクヘッジでも、全員が同時にやれば需給は人工的に逼迫する。COVID-19のトイレットペーパー騒動を思い出せばわかりやすいが、今回の規模はその比ではない。肥料が不足すれば農産物の収量が落ちる。穀物の囲い込みが広がれば食料価格が上昇する。燃料と半導体が同時に締まれば製造業全体が止まりかねない。サプライチェーン崩壊という言葉が、もはや仮説ではなく進行形に見えてくる。
イラン戦争の経済影響は、直接的な戦闘被害よりも、この「集団的過剰反応」によるほうが大きくなるシナリオも十分ありえる。各国の備蓄競争が物価の二次上昇を引き起こした場合、中央銀行が再び利上げ局面に追い込まれる展開も否定できない。
この先どうなる
ホルムズ海峡の緊張緩和が確認されない限り、この在庫積み増しの動きは止まらないだろう。むしろ各国が備蓄目標を引き上げるたびに競争は激化し、供給側の実需と備蓄需要が混在した「見えない品不足」が続く可能性が高い。食料・エネルギー価格の高止まりが家計を圧迫し続ける展開が現実味を帯びている。備えているのに、備えているせいで苦しくなる——そういう段階に入ってきたらしい。