北朝鮮の軍事偵察衛星が軌道に乗った瞬間、米軍の基地配置情報が平壌のスクリーンに映し出される未来が、一歩近づいたかもしれない。米国は今回の打ち上げを受け即座に非難声明を発表、国連安全保障理事会決議への明白な違反と断じた。ただ、声明を出して終わり――そんな流れが、もはや「いつものパターン」になりつつある。
偵察衛星が変える「攻撃の精度」、韓国・日本が標的圏に
軍事偵察衛星の実力は、単純に「空から見る」ことにとどまらない。リアルタイムで米軍基地の艦船移動や航空機の展開を把握できれば、ミサイルの照準精度は劇的に上がる。韓国と日本に展開する在韓・在日米軍は、これまで北朝鮮の監視能力の限界に一定程度守られてきた側面があった。その余白が、今回の打ち上げで縮んだとみていい。
さらに気になるのがロシアとの関係だ。ウクライナ侵攻以降、北朝鮮はロシアに砲弾や弾道ミサイルを供給してきたとされる。見返りとして何を受け取ったか。衛星技術、再突入技術、あるいは打ち上げに必要なノウハウ――その線は否定できない。朝鮮半島の宇宙軍拡が「北朝鮮単独の話」では済まなくなっている。
「米国は北朝鮮による軍事偵察衛星の打ち上げを非難し、国連安全保障理事会決議違反であると述べた。」(Reuters)
問題は、その「非難」が実際の抑止力に結びついているかどうかだ。調べてみると、北朝鮮は過去に複数回の衛星・ミサイル発射で非難声明を受けながら、開発を止めたことは一度もない。声明が抑止にならないことは、もはや証明済みといっていい。
国連安保理の制裁枠組みが「空文書」になるまで
本来なら制裁強化で対応するのが国際社会の筋書きだった。ところが、安保理で新たな制裁決議を通すには常任理事国全員の賛成が必要で、中国とロシアが拒否権を持つ現状では、実質的に不可能に近い。国連安保理の制裁 形骸化は2022年以降、急速に進んだ。ロシアがウクライナ問題で西側と対立を深めるにつれ、北朝鮮問題での協調姿勢は消えていった。
中国も「対話による解決」を優先する立場を崩していない。つまり、北朝鮮が打ち上げを重ねるたびに非難声明だけが積み上がり、実効的な歯止めは薄れていく構図が続いている。制裁の抜け穴どころか、制裁の枠組みそのものが問われている段階に来ている。
この先どうなる
米韓は独自の抑止強化に動くしかない、というのが現実的な見立てだ。在韓・在日米軍の情報収集能力を底上げし、ミサイル防衛システムの連携を強化する方向は既定路線として進むだろう。一方、北朝鮮は今後も衛星の追加打ち上げや精度向上を続けるとみられ、朝鮮半島の宇宙軍拡は当面、止まりそうにない。国際的な制裁枠組みの再構築が議論されても、中ロが首を縦に振らない限り絵に描いた餅で終わる。当分の間、この綱引きは平行線をたどりそうだ。