ヨルダン川西岸入植者暴力が、これまでと違う段階に入ったらしい。ニューヨーク・タイムズが報じたのは、単なる土地の奪い合いではなく、オスロ合意によってパレスチナ自治が公式に保障されているはずの地域への組織的な侵攻だった。暴力を逃れて自治区に逃げ込んだパレスチナ人が、そこでも入植者に追われている。逃げ場がない、というより、逃げ場そのものが標的になっている。

オスロ合意の「A地区」にまで踏み込んだ入植者たち

1993年に締結されたオスロ合意は、ヨルダン川西岸をA・B・C地区に分けた。A地区はパレスチナ自治政府が治安と行政を管轄する区域で、理屈のうえではイスラエルの入植者が介入できない場所だった。ところが今回の報道で浮かび上がったのは、その枠組みが地上で無効化されつつある現実だ。

「暴力的な入植者たちは、イスラエルの支配下にある土地からパレスチナ人を追い出しているだけではない。イスラエルがパレスチナの自治を認めた地域にまで攻撃を加えている。」(ニューヨーク・タイムズ)

これを読んで引っかかったのは、「組織的」という点だ。散発的なトラブルならまだしも、自治区への侵攻が相次いでいるとなれば、誰かが黙認しているか、あるいは後押しをしているのかという疑問が出てくる。複数の人権団体はすでに、イスラエル軍が入植者の行動を黙認ないし支援している事例を記録しているとされる。

ガザ停戦交渉にも波及する「地上の既成事実」

タイミングが悪いというより、意図的じゃないかとすら思えてくる。ガザでの停戦交渉が綱渡りを続けているこの時期に、ヨルダン川西岸で国際合意への公然たる挑戦が起きている。複数の外交筋は、この動きがガザ交渉にも直接影響を与えると警告しているという。

オスロ体制が骨抜きにされれば、二国家解決という国際社会の外交的な最終ラインが消える。バイデン政権以降、欧米が慎重に維持してきたその枠組みは、外交テーブルではなく、ヨルダン川西岸の丘の上で壊れていく。地上の既成事実が積み上がるほど、交渉の余地は狭まっていくという構図だ。

この先どうなる

国連やEUがこの報道に反応するかどうかが、まず見えてくる分岐点になる。声明レベルにとどまれば、入植者側は「黙認」と受け取る可能性が高い。米国のスタンスも焦点で、トランプ政権が入植活動に従来より寛容な姿勢を示しているなか、どこまで圧力をかけるかは不透明なままだ。オスロ合意に基づくパレスチナ自治区への侵攻が常態化すれば、二国家解決を前提とした交渉の枠組みは形骸化する。そうなれば、ガザ後の秩序を誰がどう描くかという問いに、答えを出せる当事者がいなくなる。