イッズ・アル=ディーン・アル=ハッダードが死んだ——イスラエル軍がその事実を公表したとき、ガザでは指導者の「斬首」がこれで何人目になるのか、指折り数える人間が増えていた。ハッダードはヤフヤー・シンワールが2024年に殺害された後、ガザにおけるハマス軍事部門のトップとして権力の空白を埋めた人物だ。組織が最も傷つきやすい瞬間に指揮棒を握った、いわば「後継リスクを一身に引き受けた男」だった。
シンワール死去から半年足らず、また頂点が消えた
ハマスの公式放送局がハッダードの死亡を事実上認める報道を行ったと伝えられている。組織としての正式なコメントはまだ出ていない、という点が気になった。沈黙そのものが、内部の混乱を映しているのかもしれないし、あるいは次の后継者を準備する時間稼ぎである可能性もある。
「イッズ・アル=ディーン・アル=ハッダードは昨年、ガザにおけるハマス軍事部門のトップに就いた。ハマスの公式放送局が同氏の死亡を事実上認める報道を行ったが、組織としての正式なコメントはまだ出ていない」(The New York Times, 2026年5月15日)
イスラエルは「指導者の連続的な除去がハマスの組織再建能力に根本的な打撃を与える」と主張してきた。この論法自体は2006年以降ずっと繰り返されてきたもので、過去の事例を調べると、ハマスは地下ネットワークと分散型の指揮系統を使って、何度も上層部を補充してきた歴史がある。今回も同じ経路をたどる可能性は十分にある。
「斬首作戦」は停戦交渉の切り札になるのか、それとも邪魔になるのか
タイミングがまた引っかかる。停戦をめぐる交渉が漂流を続けるなかでの今回の殺害だ。イスラエル側にとってはハッダードを交渉テーブルに着かせる必要がなくなったともいえる一方で、ハマス側が「交渉相手を殺された」と受け取れば、協議再開の動機は薄れる。報復のリスクは、ガザ市民の頭上に引き続きぶら下がったまま、ということになりそうだ。
ハマス軍事部門の指揮系統が実際にどれほど機能不全に陥っているかは、外から見えにくい。イスラエル情報機関が誇る人的情報(ヒューミント)の精度が今回の作戦を可能にしたとすれば、それはガザ内部の情報源がいまだに稼働しているということでもある。それ自体、組織の浸透度を示す指標として注目される。
この先どうなる
ハッダードの後継者が誰になるかは現時点で不明だ。ハマスの意思決定がガザ内部とカタール・トルコの海外拠点でどう分断されているか——その力学が今後の停戦交渉を大きく左右するだろう。「指導者がいなければ組織は動かない」という前提が正しければイスラエルの戦略は機能しつつある。だが「指導者がいなくても戦闘員は動く」という現実がガザで繰り返されてきたのも事実で、この問いへの答えは、次の数週間の戦況が出してくれるはずだ。