中南海に招かれた外国首脳は「極めて稀」——その言葉を口にした習近平本人が、プーチンも来たと付け加えた。トランプ大統領の今回の訪中は、14世紀建造の要塞級複合施設をめぐる異例のツアーで幕を閉じた。カメラには絵になる場面が次々と流れたが、記者が引っかかったのは、その豪華な演出の裏側に何が残ったか、という点だった。
中南海ツアーという「最高のおもてなし」の値段
中南海はかつて皇帝の別邸として使われた場所で、1949年以降は中国共産党の権力中枢として機能している。天安門広場から約20km東に位置し、湖と手入れの行き届いた庭園を擁するこの施設への招待は、外交上の「近さ」を示すシグナルとして受け取られることが多い。
習近平はトランプと並んで庭園を散策し、バラの前で足を止めた。「あの中国のバラの種を贈ります」と約束すると、トランプは「それは最高だ、素晴らしい」と返した。米中首脳会談の象徴的な場面として世界に配信された映像は、確かに絵になっていた。
ただ、BBCの報道はその演出に冷静な視線を向けている。
「習近平がトランプを案内したこの場面は、2日間にわたる訪問の中でまたひとつカメラ向けの演出であり、両者間で合意された政策の具体的内容は極めて乏しかった」(BBC News)
ベラルーシのルカシェンコ大統領も昨年中南海を訪れており、過去にはオバマ、ブッシュといった歴代米大統領も足を踏み入れている。「極めて稀」という言葉のインパクトは、調べると少し割り引いて受け取る必要があるらしい。
薔薇の種と「新たな関係」で積み残された三つの火種
トランプ訪中に先立って張り詰めていた緊張は、貿易摩擦・イラン問題・台湾の三点セット。どれひとつとっても、一度の首脳会談で解けるような話ではない。
習近平は今回の首脳会談を「新たな二国間関係」と表現したが、その中身が何を指すのかは明示されなかった。トランプは訪問を「信じられないほど素晴らしい」と評したものの、具体的な政策合意を示す共同声明や数値目標が表に出てきたわけでもない。
バラの種は美しい外交的ジェスチャーだが、タリフ(関税)の数字でも、台湾海峡をめぐる立場の表明でも、イランへの対応の協調でもなかった——ってことは、持ち帰ったのは花の種だけ、という見方もできてしまう。
この先どうなる
薔薇が咲く頃に米中関係も花開くか、といえば、楽観視するには材料が足りない。トランプ政権の対中関税は依然として高水準で維持されており、台湾への武器売却をめぐる交渉も進展が見えない。イラン問題では米中の利害が正面からぶつかる構図が続いている。
次の焦点は、今回の「演出」がどこまで実務レベルの交渉を下支えできるかだろう。中南海という舞台設定が示したのは、習近平がトランプとの関係を「特別扱い」として演出したいという意志。その演出に乗る形でトランプが具体的な譲歩を引き出せるかどうか、今後の交渉過程を追う必要がある。花が咲くより先に、秋の関税協議シーズンがやってくる。