米中首脳会談の初日、北京で習近平がいきなりやってきたのは「警告」だった。外交の場でこれほど露骨に台湾問題を前面に押し出してくるのは、正直あまり記憶にない。しかも相手は、安全保障の論客を一人も連れてこなかったトランプだ。
習近平の台湾警告——外交の「作法」を外れた直接圧力
今回の会談で真っ先に目を引いたのが、習近平の台湾への言及の仕方だった。「厳重な警告」という表現が外交文書ではなく首脳会談の場で飛び出すのは、かなり異例らしい。通常の外交では、こういう踏み込んだメッセージは実務者協議で水面下に通すものだからだ。それをあえて首脳の口から直接ぶつけてきた、という点が引っかかった。
習がここまで前のめりになった背景には、関税90日停戦という絶妙なタイミングがある。米中双方が貿易摩擦の「休戦中」である今、中国側には経済的な大ごとを起こしたくない事情がある一方、台湾問題では一ミリも譲歩する気がないというシグナルを送り込む、格好の舞台でもあった。
習近平は台湾について厳しい警告を発し、一方のトランプは代表団に名を連ねるビジネス界のトップたちを誇示した。(The New York Times)
習の本気度は、この一文だけで伝わってくる。「誇示」という言葉を使われているトランプ側との温度差も、実は読みどころの一つだったりする。
テスラ、ブラックストーン——「ビジネス代表団」が示す交渉の流儀
対するトランプが北京に持ち込んだのは、安全保障の専門家でも国防の論客でもなく、テスラやブラックストーンといった財界の重鎮たち。これは意図的な選択に見える。国家間の外交というより、大型M&Aの交渉テーブルに近い座組みだ。
この構図、悪く言えば「台湾の安全保障より経済的実利」という優先順位を丸見えにしてしまっているわけで、習側から見ればむしろ好都合だったかもしれない。習近平が台湾警告を最初に出してきたのも、トランプの「商売人」的な交渉スタイルを読んでのことじゃないかと、個人的には疑っている。
ニューヨーク・タイムズは初日の協議を「2日間の交渉の序章に過ぎない」と位置付けていて、本番はまだこれからということらしい。習がカードを早々に切ってきた以上、トランプ側がどう返すかで、この会談の歴史的な評価が決まってくる。
この先どうなる
関税90日停戦の期限が迫る中、米中が何らかの「合意の枠組み」を演出する可能性は高い。ただ台湾問題は、いくらトランプ政権が経済優先でも簡単に棚上げできるほど単純じゃない。台湾海峡をめぐる緊張は、貿易交渉の帰趨とは別の軸で動き続ける。財界トップを並べた代表団が「ビジネス取引」として持ち帰れるものと、習近平が絶対に取引させない領域——その境界線が、2日目以降の交渉でどう引かれるかを見ておく必要がある。世界の貿易秩序と台湾海峡の安定、どちらも今この北京の部屋に賭かっている。