イラン処刑急増の実態が、停戦合意の直後に表面化した。複数の人権団体がニューヨーク・タイムズに提供したデータによると、今年に入ってからの処刑件数は直近の同期比を大きく上回っており、犠牲者の中には1月の大規模抗議運動で当局に拘束された市民が多数含まれているという。外交の舞台では核問題の解決ムードが漂っていたが、国内では全く別の空気が流れていたらしい。
1月拘束者が標的——処刑が急増した「タイミング」の意味
1月にイラン各地で起きた抗議運動は、物価高騰や政治的抑圧への怒りが噴き出したもので、当局は数百人規模の市民を拘束したとされる。その後、核交渉や停戦交渉が国際社会の関心を独占するなか、拘束者の処遇はほとんど報じられなくなっていた。
今回、処刑件数が急増したのは、まさにその「国際社会が別の方向を向いていた」期間に重なっている。偶然とは考えにくい。人権団体の分析では、処刑の対象は明らかに組織的に選別されており、抗議運動のリーダー格や再犯リスクがあると当局が判断した人物が優先的に処刑されているとみられる。
「人権団体によると、1月の大規模抗議中に拘束された者が多く含まれており、当局がイラン国民が再び街頭に戻ることを威嚇しようとしているとの懸念が高まっている。」
「恐怖の植えつけ」という言葉を、複数の人権活動家が使っている。次に誰かが抗議しようとしたとき、あの1月に拘束された人たちの結末が脳裏をよぎるようにする——そういう計算が働いているんじゃないか、というわけだ。
核交渉と人権、イランが使い分ける二つの顔
1月抗議運動弾圧の深刻さが改めて浮き彫りになったいま、欧米各国は難しい判断を迫られる。イランとの核合意は地政学的な安定に直結するため、人権問題を前面に出しすぎると交渉そのものが崩れるリスクがある。一方で、イラン人権侵害を黙認すれば、国内の人権団体や野党からの批判は避けられない。
過去の事例を振り返ると、2015年のJCPOA(核合意)交渉でも人権問題は「別トラック」として切り離された経緯がある。イラン政府はその構図を熟知しており、今回も外交的に「使える時間帯」を読んで行動している可能性が高い。核交渉が山場を迎えるタイミングで制裁議論が分散する——こういう流れ、以前にも見た気がする。
この先どうなる
短期的には、米国と欧州がイラン人権侵害をどこまで核交渉の条件に組み込むかが焦点になる。制裁の「解除条件」として人権改善を明示するかどうかで、交渉の性格が大きく変わるからだ。人権団体はすでに国連特別報告者への働きかけを強めており、今後は国連人権理事会での緊急討議を求める動きも出てくるだろう。イラン政府が処刑ペースを落とすとすれば、それは外圧によるものではなく、国内の抵抗運動が沈静化したと判断したときだろう。いずれにせよ、停戦後のイランは表の顔と裏の動きが大きく乖離したまま、しばらく国際社会の視線を浴び続けることになりそうだ。