アル・ハッダードは、逃走中の車の中にいた。停戦が続くガザで、イスラエル軍はカッサーム旅団司令官を3発のミサイルで仕留め、さらに1.5キロ先まで追った。2025年、停戦という言葉の意味が静かに書き換わりつつある。
3発同時・2方向——ガザ市中心部で何が起きたか
攻撃を受けたのはガザ市中心部に立つ居住ビル「アル・ムウタズ」。BBC取材班に証言した目撃者3人によれば、ミサイルは2方向から同時に放たれ、ビルは瞬く間に炎に包まれた。救助チームが駆けつけたが、瓦礫と火災が行く手を阻んだという。
さらに見過ごせないのが第2撃だ。武装したハマス隊員が民間人の服装で瀕死の人物をビルの裏口から運び出し、車に乗せて逃走。ところが、そのまま終わらなかった。
「ビルから約1.5キロの地点で逃走車両が追撃を受け、3人が死亡した」——BBCの目撃者証言および現地情報源より
イスラエル軍がドローンか戦闘機でその車を追い続けていたとすれば、最初から「仕留めきる」シナリオで動いていたことになる。停戦下でここまで精密な二段構え作戦が実行されたというのは、じわじわと重い事実だった。
ネタニヤフが「設計者」と名指し——ハマスが黙る理由
ネタニヤフ首相とカッツ国防相は連名声明で、アル・ハッダードを「10月7日の虐殺の設計者の一人」と断言し、数千人のイスラエル民間人とIDF兵士の殺害・拉致・負傷に責任があると主張した。カッサーム旅団の現役司令官クラスの名前がここまではっきり出てくるのは珍しい。
一方でハマスは死亡を認めず、否定もしていない。この「沈黙」は戦術的な選択に見える。認めれば士気への打撃が公式化し、否定すれば証拠をつきつけられるリスクがある。どちらも選ばず、曖昧な霧の中に置いておくのがハマスの常套手段でもある。
ガザ停戦が続く中、今回のような作戦がどこまで許容されるのか——国際社会の反応はまだ定まっていないらしい。カッサーム旅団の指揮系統に実際どの程度の損傷を与えたかも、現時点では不明のままだ。
この先どうなる
停戦合意の文面上、こうした標的殺害がどう位置づけられるかは今後の焦点になりそうだ。イスラエルは「テロリスト除去」と説明するが、ガザ停戦の仲介役であるカタールやエジプトがこれをどう受け止めるかで、停戦の持続性が試される局面が来るかもしれない。ハマス側が沈黙を破るタイミングと内容次第で、現地の緊張感は一気に変わる可能性もある。アル・ハッダードの死亡が正式に確認された瞬間が、次のフェーズの起点になるだろう。