トランプ訪中は8年ぶり——だが、戻ってきたのは同じ中国ではなかった。前回2017年、トランプは故宮内での晩餐会という破格の歓待を受けた。今回の会場は習近平ら最高指導部が実際に居住する閉鎖複合施設・中南海。格式はさらに上回り、交渉テーブルの中身もまるで違う。

中南海会談に新議題「イラン」が加わった理由

貿易、テクノロジー、台湾——これは2017年から変わらないアジェンダだ。だが今回、そこにイランが加わっている。米国はイランへの制裁強化と核協議を同時進行させており、中国はイランの最大の石油購入国として交渉カードを持つ。ワシントンとしてはイラン問題で北京に一定の協力を引き出したい思惑があるらしく、習近平3期目の外交姿勢がどこまで柔軟かを試す場にもなりそうだった。

「前例なき3期目に突入した野心的な習近平は、再生可能エネルギー・ロボット工学・人工知能への重点投資を柱とする『新質生産力』構想を推し進めている。」(BBC News)

この「新質生産力」という言葉、最初に聞いたとき少し引っかかった。聞き慣れないスローガンだが、実態はかなり具体的な産業政策だ。風力・太陽光への国家投資、工場の自動化加速、AI開発への補助金集中——これを10年かけて積み上げてきた結果が、いま中国の地方都市にまで浸透している。

重慶が「映える都市」になるまでに何が起きたか

内陸の製造業都市・重慶がSNSのトレンドを席巻するようになったのは、数年前から急速に進んだ自動化と新インフラ投資の結果だという。かつては「鉄とスモッグの街」と言われた場所が、ロボティクス導入と観光再開発でインフルエンサーたちの撮影スポットになっている——これは象徴的な話で、中国が対外的に見せたい「フレンドリーな未来像」そのものじゃないかと思う。トランプ政権が関税で圧力をかけようとする相手が、こういう変貌を遂げているわけだ。

2017年当時、米国側は「中国はまだ追いつく途中」という余裕があったかもしれない。今回はそうじゃない。AIと再エネで世界標準を競い、軍事的には台湾海峡での演習頻度を増やし、外交では「グローバルサウス」へのアプローチを強化している。習近平3期目の中国は、交渉相手として8年前より明らかに手強くなっていた。

この先どうなる

中南海会談で具体的な合意が出るかどうかは、正直まだ見えにくい。貿易では関税交渉が泥沼化しており、テクノロジー分野では半導体規制をめぐる溝が深い。台湾問題は双方が引けない一線だ。ただ、イランを新たな交渉カードとして北京が使えるなら、局所的な取引が成立する可能性はある。次に注目すべきは共同声明の文言——特に「デカップリング」「競争」「協力」という3つの単語がどんな順番で並ぶか。そこに今後の米中関係の温度計が隠れている。