尿素価格急騰が90%を超えた——この数字、農業と無縁な人でも一度立ち止まって考えてほしい。イランをめぐる戦争でホルムズ海峡の海上輸送が滞り、湾岸経由で届くはずだった肥料が世界市場から急速に消えつつある。その煽りを最も正面から受けているのが、海を持たないアフリカ南部の内陸国・マラウイだ。Bloombergが報じた。

マラウイの農家に届かなかった90%値上がりの肥料

マラウイは農業人口が全体の8割近くを占め、主食のトウモロコシ栽培に化学肥料、とりわけ尿素が不可欠な国だ。問題は輸入ルート。海に面していないため、モザンビークやタンザニアの港を経由して陸送するしかない。そこに今回のホルムズ海峡混乱が重なった。湾岸諸国からの尿素船舶が動けなくなれば、マラウイに届く量は根元から絞られる。

現地農家の手元にある備蓄はもともと薄い。価格が2倍近くになれば、小規模農家は「買えるだけ買う」どころか「今季は諦める」という判断を迫られる。土地があっても肥料がなければ収量は激減するのだから、これは事実上の作付け断念に近い。

「尿素肥料の価格が90%超急騰している」——Bloomberg, 2026年5月13日

ホルムズ海峡 肥料というキーワードで調べると、今回に限らず中東の地政学リスクが肥料供給を揺さぶった事例は過去にもある。2022年のロシア・ウクライナ戦争でも天然ガス由来の窒素肥料が不足し、アフリカや南アジアの農業国が直撃を受けた。今回はそれが再来しているようにも見える。

「戦場から遠い食卓」が最初に崩れる理由

マラウイ食料安全保障の脆さは、実は世界中に共通するパターンの極端な例といえる。農業国が肥料を外国に依存し、その輸送ルートが特定の海峡や航路に集中している——この構図はマラウイだけじゃない。バングラデシュ、エチオピア、ザンビアといった国々も似たような輸入依存度を抱えている。

ホルムズ海峡は世界の海上石油輸送の約2割が通過する要衝として知られているが、液化天然ガスや肥料原料の輸送でも主要ルートになっている。そこが閉塞すれば、影響は石油価格だけにとどまらない。「砲弾ではなく食卓の上に落ちる」という表現、少し大げさに聞こえるかもしれないが、マラウイの現状を見ると否定しにくい。

現地の農業NGOや国連WFPはすでに緊急の肥料支援を検討しているとみられるが、価格が高騰した市場から調達すること自体がハードルになるのは皮肉な話だ。

この先どうなる

ホルムズ海峡の混乱が長引けば、南半球の農業国では今秋の作付けに直接影響が出る可能性がある。マラウイの主要作付けシーズンは11〜12月。それまでに尿素価格急騰が収まらなければ、来年前半の食料不足が現実になりかねない。

一方、中国やサウジアラビアが代替供給者として動く可能性もあり、市場の流れはまだ読み切れない。ただ、マラウイ食料安全保障という観点から言えば、代替ルートが整うまでの「空白期間」がそのまま飢えのリスクに直結する。海峡ひとつで食卓が揺れる——その事実は、停戦交渉がどう転んでも消えない課題として残りそうだ。