湾岸シーア派弾圧が、戦時という名の免罪符を得て一気に動き出した。ニューヨーク・タイムズが報じたところによれば、サウジアラビア・バーレーン・クウェートの3カ国が数十人のシーア派市民をほぼ同時期に拘束。容疑はイランと連携したテロ細胞への関与、つまり「内通者」扱いだ。
バーレーン:人口の7割が「敵」になる国
数字が妙に引っかかった。バーレーンでは国民のおよそ7割がシーア派でありながら、政権を握るのはスンニ派の王族一族。2011年のアラブの春でも大規模な抗議運動が起き、サウジアラビア軍が鎮圧に乗り込んだ経緯がある。
今回の一斉逮捕を見ていると、イランとの戦争が「以前から積み上がっていた矛盾を押しつぶす口実」として機能しているようにも映る。宗教的少数派への監視網を戦時立法の枠内で一気に広げる、そういう動きらしい。
「戦争の加速により地域の権威主義化が深化する中、数十人の湾岸市民がイランと連携したテロ細胞への関与を告発されている」(The New York Times, 2026年5月13日)
国際人権団体はすでに懸念を表明しているが、戦時下ではそうした声が届きにくくなるのも事実。イラン戦争と内部粛清が連動する構図は、湾岸地域に限った話でもなかった。
「敵の仲間」ラベルが貼られる前に逃げ場はあるか
サウジアラビアでも東部州を中心にシーア派住民への締め付けは以前からあったが、今回は逮捕件数と告発の勢いが明らかに違う。バーレーン権威主義の問題が地域全体に広がっていく、そういうフェーズに入ったんじゃないかという見方が出ている。
歴史を振り返ると、戦争中に「内なる敵」を名指しするパターンは何度も繰り返されてきた。日系アメリカ人の強制収容しかり、チェチェン戦争下のロシアしかり。その都度、後から「あれは行き過ぎだった」と認定されるが、当事者には何も戻ってこない。
湾岸シーア派弾圧の現場で今まさに起きていることは、その同じ論理が動いているように見える。
この先どうなる
イランとの戦闘が長引けば長引くほど、各国政府が「国内の安定」を名目に締め付けを強める圧力は増す一方だろう。バーレーンではすでに野党組織の活動が実質的に封じられており、次の段階として市民社会団体や宗教指導者への捜査が広がる可能性がある。クウェートはシーア派議員を複数抱える議会が機能しているため、すぐに同じ強度の弾圧にはなりにくいが、情勢次第でその緩衝材も消えかねない。国際社会が戦争の「大きな絵」に集中している間に、少数派の権利が静かに削られていく、そういう展開が続くか。