UAE イラン攻撃——その4文字を、ウォール・ストリート・ジャーナルが複数の関係者証言をもとに報じた瞬間、「湾岸の調停者」というUAEのブランドイメージは、音を立てて崩れた。先月、UAE軍がイラン本土に対して攻撃を実施したという。中東エスカレーションとして、これほど性質の異なる一手はなかなかない。

UAEがイランを直接攻撃——仲介者が当事者に変わった日

UAEはこれまで、イスラエルとの国交正常化(アブラハム合意)を実現しながらも、イランとの経済的つながりを維持するという綱渡りを続けてきた国だ。ドバイには多くのイラン系ビジネスマンが行き来し、表向きは対話路線を崩さなかった。

それがなぜ今、直接行動に出たのか。WSJの報道からはっきりした動機は読み取れないが、イスラエルや米国との水面下での連携強化が進んでいたことは、複数の外交筋が以前から指摘していた。「仲介者」から「当事者」へのシフトは、ある日突然起きたわけじゃなく、じわじわと積み上がってきた変化の帰結らしい。

「事情に詳しい複数の関係者によると、アラブ首長国連邦は先月、イランへの攻撃を実施した。これは地域紛争における重大なエスカレーションを意味する。」(ウォール・ストリート・ジャーナル)

WSJが「重大なエスカレーション」という言葉を使ったのは、イスラエルによるイラン攻撃とは意味合いが違うからだ。イスラエルとイランは長年の宿敵で、衝突そのものは「想定内」として市場も外交界も織り込んできた。しかしUAEが動いたとなると、話は別の次元に入る。

ホルムズ海峡リスクが跳ね上がる——原油輸送の20%が通る海域で何が起きるか

ホルムズ海峡の緊張が高まるたびに、市場が神経をとがらせる理由はシンプルだ。世界の原油海上輸送のおよそ20%がこの細い水路を通る。UAEもイランも、この海峡に面した当事国であり、今回の攻撃が報復を呼べば、航路そのものが戦場になりかねない。

日本にとっては特に他人事ではない。日本の原油輸入の約9割は中東産で、その大半がホルムズ海峡を経由する。東アジア全体のエネルギー供給が同じ構造を持つことを考えると、UAE・イラン間の衝突が長期化した場合の影響は、原油価格の乱高下にとどまらない話になってくる。

一方で、今のところ市場の反応は限定的だ。「また中東が騒がしい」というある種の慣れが働いているとも言えるし、攻撃の規模や目的がまだ不明確なため、判断を保留している投資家が多いとも読める。ただし、イランが報復を選択した場合、その「慣れ」は一瞬で吹き飛ぶ。

この先どうなる

最も注目すべきは、イランの出方だ。UAEへの直接報復に踏み切るか、プロキシ勢力を通じた間接的な揺さぶりにとどめるか、あるいは外交チャンネルで事態を沈静化しようとするか。イランには現在、核交渉の再開をめぐる外交的な思惑もあり、全面対立に突き進む選択肢は取りにくい側面もある。

UAEがこの攻撃を公式に認めるかどうかも焦点になる。公式否定のまま事態が進めば、「グレーゾーンの衝突」として中東の不安定要因がひとつ増えるだけで終わるかもしれない。ただ、WSJが複数の関係者証言をもとに報じた以上、情報は既に流れ出している。次の動きは、どちらが先に公式の言葉を発するかにかかっていそうだ。中東エスカレーションの新章が開いたとすれば、その最初のページはまだ書きかけのままだ。