ADNOCが、自国が設定してきた日量500万バレルという生産能力の上限を「要請があれば超える」と言い切った。これはちょっとした爆弾発言じゃないか。OPECプラスが協調減産の旗を掲げ続けている最中に、主要産油国の国営企業トップが増産余力を公言したのだから。
OPECプラスの「500万バレル」という数字が持つ重さ
UAEはここ数年、着実に生産能力を積み上げてきた。2027年までに日量500万バレルへの拡大を目標に掲げ、ADNOCはその達成に向けて設備投資を加速させていた経緯がある。
今回、同社の掘削部門CEOが語ったのはその先の話だ。
「ADNOCドリリングは、要請があればUAEの石油生産能力を日量500万バレルの目標を超えて拡大する準備ができている」(Reuters、2026年5月12日)
「要請があれば」という条件付きではある。ただ、この一言が市場に与えるメッセージは条件を軽く超えてくる。供給を絞る方向で動いてきたOPECプラスの枠組みの中で、UAEは独自の能力拡張路線を止めていないと世界に示したかたちになった。
UAE石油増産への意欲は以前から燻っていたが、今回ほど明確に「上限を超えられる」と言い切った発言は珍しい。OPECプラス内での足並みの乱れを示唆しているとみる向きは少なくないだろう。
供給過剰の恐怖とイラン情勢が同時に動いている
今の原油市場は奇妙な二重構造を抱えている。一方では、サウジアラビアを中心にOPECプラスが想定より速いペースで増産に踏み切ったことで、供給過剰への警戒が高まっている。原油価格はじわじわと下押しされてきた。
もう一方では、ホルムズ海峡を巡る地政学的な緊張が続いており、中東産原油の供給が突然途絶するリスクへのプレミアムが価格に乗っている。今のところ両者が相殺し合って、価格は不安定ながらも極端な動きを避けている状態だ。
そこにADNOCの「500万バレル超も可能」発言が加わった。供給側の余力がこれほど明示されると、リスクプレミアムの綱引きで供給過剰懸念が優勢になるシナリオも十分ありえる。
この先どうなる
焦点は二つ。ひとつはOPECプラスの次回会合でUAEがどう立ち回るか。増産ペースを巡って加盟国間の駆け引きはすでに始まっており、UAEが「上限を超えられる」と公言した以上、交渉カードとして使ってくる可能性がある。
もうひとつはイラン情勢の行方だ。米・イラン協議が続く中、合意が成立してイラン産原油が市場に戻るシナリオと、交渉が決裂して地政学リスクが再燃するシナリオでは、ADNOCの増産余力が持つ意味がまるで変わってくる。UAEが本当に500万バレルの壁を破る日が来るとしたら、その引き金は案外、テヘランの動き次第かもしれない。