ブレント原油急騰の号砲を鳴らしたのは、軍でも爆発でもなく、トランプ大統領の発言だった。5月12日、ブルームバーグが報じたところによると、同大統領はイランとの停戦合意に疑念を示す言葉を口にし、北海産ブレント原油はその瞬間から上昇幅を拡大させた。停戦が揺らいでいるのか、それとも揺らいでいるように見せているだけなのか——市場はその区別をつける余裕なく動いた。
世界の原油2割が通る海峡で、何が起きているのか
ホルムズ海峡は幅が最狭部で約33キロ。だが、そこを通過する原油は世界の海上輸送量の約2割に相当する。サウジアラビア、イラク、クウェート、UAE——湾岸の主要産油国がここを経由して原油を輸出している。
イランとの緊張が高まるたびに「封鎖リスク」が取り沙汰されてきたのはそのためで、今回も停戦の持続性への不信感が少し芽生えただけで、先物市場はリスクプレミアムを乗せ始めた。実際に封鎖が起きなくても、起きるかもしれないという空気だけで動く——それが原油先物市場の実態だったりする。
「トランプ米大統領がイランとの停戦に疑義を呈したことを受け、原油価格が上昇した」(Bloomberg、2026年5月12日)
欧州・アジアの精製業者にとって、調達コストの上昇はほぼ即日でガソリンや軽油の価格に転嫁される。精製マージンが縮小すれば減産に動く業者も出てくるし、サプライチェーン全体がじわじわと締め上げられていく。イラン停戦疑念が飛び火する先は、意外と身近なところにある。
トランプ発言ひとつで動く市場——「政治リスク」の計算式が変わった
ここで引っかかるのは、トランプ発言の重さが以前と違うかもしれないという点だ。第一期政権でも同様のパターンは繰り返されたが、当時と今では市場参加者のアルゴリズムが発言を拾うスピードが格段に上がっている。SNS投稿からニュースワイヤー、そして先物板への波及が数十秒で完結する時代、「発言の真意」を確認する時間は誰にも与えられない。
イラン核交渉の文脈でいえば、停戦合意が本当に成立しているのか、それとも米側がカードを切り続けているのかも、外部からは見えにくい。ホルムズ海峡リスクが完全に消えていないという前提で動くしかないのが、今の市場参加者の立場だろう。
この先どうなる
焦点は、トランプ発言が「交渉戦術の一環」なのか「停戦破綻の予兆」なのかが明らかになるタイミングだ。前者であれば原油価格の上昇は一時的なもので、合意が改めて確認されれば反落する可能性が高い。後者なら、ホルムズ海峡リスクはさらに織り込まれ、ブレントは現水準からもう一段切り上がる展開になりかねない。
エネルギー輸入依存度の高い日本にとっては、円安と原油高が重なる最悪のシナリオも排除できない。次の手がかりは、米イラン双方の公式声明か、あるいはまたトランプのSNS投稿か——どちらにせよ、次の動きは速い。