フランス経済失速の兆候が、数字として現れ始めた。フランス中央銀行が5月12日に公表した企業月次調査によると、イラン戦争が引き金となったエネルギー価格の急騰と供給網の寸断が、ユーロ圏第2位の経済大国を静かに蝕んでいるらしい。製造業から小売業まで企業センチメントは軒並み悪化。成長とインフレが逆方向に振れるスタグフレーションという最悪のシナリオが、もはや「仮説」では済まなくなってきた。

エネルギー高騰+供給網寸断——フランス産業への二重打撃

中東の地政学的緊張が欧州に波及するルートはシンプルだ。原油・天然ガスの調達コストが跳ね上がり、ホルムズ海峡周辺を経由する物流が滞る。フランスの場合、製造業がエネルギー集約型の工程を多く抱えているため、コスト圧力はほかの欧州諸国より直接的に利益率を削る構造になっている。

さらに厄介なのが、インフレと景気後退が同時に走り始めている点だった。通常の景気後退なら需要減→物価下落という流れで自己修正が働く。ところか今回は、供給サイドのショックが物価を押し上げながら、消費者・企業の心理を冷やしている。中央銀行の教科書的な「利上げか利下げか」という二択では対処しきれない局面に入ってきた。

「フランス経済は、中東紛争の余波が成長を直撃し、インフレ圧力を高める中、失速の兆候を示している」——Bloomberg報道(フランス中央銀行企業月次調査に基づく)

イラン戦争欧州波及の影響をここまで鮮明に示したデータは、今回が初めてに近い。これまでは「欧州は地理的に遠い」という楽観論が市場の一部に残っていたが、その前提が崩れつつある。

ECBの利下げサイクルを直撃——金融政策の板挟み

欧州中央銀行(ECB)はここ数カ月、インフレ沈静化を受けて緩やかな利下げサイクルに入っていた。ところが、スタグフレーション ECBという最悪の組み合わせが現実になれば、その道筋は根底から揺らぐ。利下げを続ければインフレを再燃させるリスクがある。かといって利上げに転じれば、すでに弱っている需要をさらに冷やしかねない。

ドイツが財政拡大路線にシフトした直後のタイミングで、フランスまでが戦争ショックに引きずられると、ユーロ圏の二大エンジンが同時に減速するという絵が見えてくる。ECBのラガルド総裁がどんな言葉を選ぶか、次の理事会は注目度がかなり高くなりそうだ。

この先どうなる

焦点は二つ。ひとつは、イラン情勢が早期に落ち着くかどうか。停戦交渉の進展次第でエネルギー価格は一気に反転する可能性があり、その場合はフランス企業センチメントの回復も早いだろう。もうひとつは、ECBが「物価安定」と「成長支援」のどちらを優先するかの判断だ。フランス中央銀行の調査はあくまで単月のスナップショットだが、同様のデータがイタリアやスペインでも確認されるようになれば、欧州全体の金融政策の再設計が避けられなくなる。フランス経済失速が「警告灯」で済むのか、「本格的な危機の始まり」になるのか——次の月次調査が出る6月が、最初の分岐点になる。