ジェイミー・ダイモンが、英国政府に向けて異例の直接警告を放った。2026年5月12日、パリで開催されたJPモルガン・グローバル・マーケッツ会議の場で、世界最大の銀行のトップが「課税を上げるなら出ていく」とスターマー政権に突きつけた格好だ。
ダイモンが明言した「撤退条件」とは何か
JPモルガンはロンドン中心部に大規模な新本社を構える計画を進めてきた。金融業界では長らく、この計画がブレグジット後もロンドンをグローバル金融の中軸に据え続けるという意思表示だと受け取られていた。ところがダイモンは、英国が銀行課税を引き上げた場合、その計画を白紙に戻すと述べた。
「ジェイミー・ダイモンは、英国政府が銀行への課税を引き上げた場合、JPモルガン・チェースは英国の新本社計画を白紙に戻すと述べた。」(Bloomberg、2026年5月12日)
スターマー政権は財政再建のために金融機関への課税強化を検討しているとされる。その矢先にこれだけの規模の「撤退予告」が出てきたわけで、タイミングは偶然じゃないだろう。ダイモン発言がパリという「欧州の競合都市」で飛び出したのも、意味深に映る。
シティが抱える「課税強化 vs 人材・資本の流出」というジレンマ
英国銀行課税をめぐる議論は今に始まったことではない。2011年の銀行税(バンク・レビー)導入以降、金融機関は繰り返し「課税が重くなればロンドンを離れる」と警告してきた。それでも実際に大規模な移転には至らなかった経緯がある。だからこそ今回も「どうせ脅しだろう」と見る向きは少なくない。
ただ、ブレグジット後のロンドンは状況が違う。アムステルダム、パリ、フランクフルトが欧州金融拠点としての存在感を着実に高めており、ロンドン金融センターとしての優位は以前ほど盤石ではない。JPモルガンだけで英国内に約1万2000人の雇用を抱えるとされ、新本社計画の凍結は象徴以上のインパクトを持ちうる。
「資本と雇用は国境を越える」という現実を、ダイモンほどの人物が会議の壇上で口にした重みは、交渉カード以上のものとして受け取る関係者も多いらしい。
この先どうなる
英国財務省がこの警告にどう応じるかが、当面の焦点になる。課税強化を予定通り進めれば、JPモルガンが本当にロンドン計画を縮小・凍結する可能性は否定できない。逆に政府が折れれば、他の大手金融機関も同様の圧力をかけてくる前例をつくることになる。スターマー政権にとって、財政健全化と金融センターとしての競争力維持という二つの命題を同時に満たす答えは、そう簡単には見つからなそうだ。次の動きはダイモンではなく、ロンドンの財務省側から出るだろう。