スターマー辞任を求める声が、外ではなく党の内側から一斉に上がった。労働党の数十名の指導者が首相への退陣要求に動き、複数の政府補佐官も辞表を提出したと報じられた。就任からまだ1年も経っていない。それがこの事態の、いちばん引っかかるところだった。

地方選の惨敗が引き金、数十名の離反が示すもの

今回の引き金になったのは、直前の地方選挙での歴史的な敗北らしい。議席を大きく失った直後、党内の不満が一気に表面化した格好だ。

スターマーが就任以来進めてきたのは、いわゆる「中道路線」。急進的な左派色を薄め、広い有権者層に訴えかける戦略だった。ところが党内の左派勢力にとっては、これが「裏切り」に映っていたようで、地方選の結果はその不満に火をつけた。

「労働党の数十名の指導者がキア・スターマー首相に対し辞任を求め、複数の政府補佐官が辞表を提出したと報じられた。」(The New York Times, 2026年5月11日)

数十名という規模が重要で、これは一部の過激派が騒いでいるのとは次元が違う。党内の中堅・幹部層まで巻き込んだ離反であれば、政権の求心力はほぼ機能不全に近い状態といっていい。

英国政治危機が飛び火する先——ウクライナとEU再接近

国内の話にとどまらないのが、この労働党内部分裂のやっかいなところだ。

スターマー政権は、前政権から引き継いだウクライナ支援を継続する姿勢を示してきた。EU離脱後の関係修復——いわゆる「EU再接近」交渉についても、静かに布石を打っていたとされる。ところが政権が求心力を失えば、こうした外交的な継続性は一気に怪しくなる。

交渉相手のEU側にとっても、「この政権と取り決めを進めていいのか」という疑問が生じるのは自然なことで、英国政治危機の余波は外に出ていく可能性が高い。

ロンドン発の報道を見ていると、「次の一手を誰も描けていない」という表現が何度か出てくる。スターマー本人は辞任を否定しているとも伝えられるが、党内の空気がどこまで戻るかは、現時点では読めない。

この先どうなる

当面の焦点は、スターマーが党内をまとめ直せるかどうか。過去の英国政治を振り返ると、党内からの大規模な辞任要求が出た後に政権が立て直した例はほとんどなく、大半は早期の政権交代に向かっている。

もし辞任か総選挙前倒しという流れになれば、野党・保守党や台頭著しい右派政党リフォームUKにとっては追い風になりかねない。そうなったとき、EU再接近路線やウクライナ支援の枠組みが維持されるかは、まったく別の話になってくる。

「内部崩壊」という言葉が使われはじめたとき、たいていもう後戻りは難しい——英国政治がそのジンクスを破れるか、しばらく目が離せない。