英国債ギルトの利回りが、三つの震源から同時に押し上げられている。財政赤字、インフレの粘着、そしてキア・スターマー首相の政権基盤の揺らぎ——どれか一つでも厄介なのに、2026年5月の英国はそれを同時に抱え込んでしまった。Bloombergが「三重の打撃(Triple Hit)」と表現したのは、そういうことらしい。
GDP比100%、インフレ3%台——数字が語るギルト危機の輪郭
英国の政府債務残高はGDP比100%に迫っている。財務省が想定する財政再建シナリオとの乖離はじわじわ広がっており、投資家の視線は自然と「この国は本当に借金を返せるのか」という問いに向く。
そこにコアインフレ率3%台が重なる。英国中央銀行(イングランド銀行)は利下げを急ぎたいはずだが、インフレが粘る限り動けない。金利が高止まりすれば国債の利払い費はさらに膨らむ——典型的な悪循環の入口だ。
「Debt, Inflation, and Politics: UK Bonds Are Taking a Triple Hit」——Bloomberg, May 12, 2026
この見出しが端的に示す通り、市場が警戒しているのは個々の問題ではなく、三つが連動し始めたという「同時性」にある。2022年秋、リズ・トラス首相が打ち出した無財源減税がポンドとギルトを同時に叩き落としたあの45日間の記憶が、投資家の脳裏にちらついているんじゃないかと思う。
スターマー政権危機が市場の「怖い想像」に火をつけた
経済の話だけなら、まだ「管理できる問題」で済んだかもしれない。ところがここにスターマー首相の政権危機が加わった。支持率の低迷と内閣内の求心力低下が報じられ始め、政策の継続性に対する疑念が市場に滲み出てきた。
英国財政赤字という問題は、財務相がどれだけ「計画通り」と繰り返しても、政権が不安定に見えた瞬間に市場は信じなくなる。ポンドと英国債の連動安が深刻化すれば、欧州全体の金利動向を揺さぶる導火線になりうるとBloombergは指摘した。英国発の金融ショックが欧州に伝播するシナリオは、ユーロ圏諸国にとっても他人事ではない。
スターマー政権危機が英国インフレ財政赤字の問題をどう悪化させるか——そこに市場の目線が集まっているのが、今の局面だ。
この先どうなる
最も注目すべきは、イングランド銀行の次の一手と、英国財務省が次回予算声明でどんな数字を出してくるかだろう。インフレが3%台にとどまり続ける中で利下げを強行すれば、ポンド安とギルト売りが加速するリスクがある。かといって利上げ継続は政府の利払い費をさらに押し上げる。
政治面では、スターマー首相が退陣圧力をどこまで跳ね返せるかが鍵。政権交代の観測が強まれば、財政政策の先行きが読めなくなり、ギルト利回りはさらに上昇圧力を受ける。トラス危機から4年、英国が同じ轍を踏むかどうか——少なくとも市場はその可能性を、もう笑い飛ばせなくなっている。