イラン戦争による米経済損失が、FT(フィナンシャル・タイムズ)の独自試算で1兆ドルを超える規模に達しつつあると明らかになった。驚いたのは数字の大きさだけじゃなく、その損失がほとんど表に出てこなかったという事実のほうだった。

AIバブルが隠した「1兆ドルの穴」

大手企業の決算を眺めると、確かに数字は悪くない。エヌビディアをはじめとするAIセクターが猛烈な勢いで収益を押し上げ、全体の業績を底上げしている。だからこそ見えにくくなっていたものがある。製造業、輸送、小売の各セクターで起きている静かな出血だ。

「AIブームが、イラン戦争が大企業に与えた打撃をいかに隠蔽しているか」――フィナンシャル・タイムズ

FTが指摘しているのは、この「隠蔽」の構図だ。好調なセクターが損失セクターを覆い隠す形になっていて、集計数字だけを見ると米経済は堅調に映る。ところが一枚めくると、燃料コスト、物流費、原材料費がじわじわと上がり続けている。

ホルムズ海峡の緊張がエネルギーコストを直撃するルート

ホルムズ海峡の封鎖リスクが高まるにつれ、原油の先物市場は神経質な動きを繰り返してきた。それが米国内の燃料価格に連動し、トラック輸送コストが上がり、スーパーの棚に並ぶ食料品の価格に乗っかっていく。光熱費も同じ経路をたどる。要するに、家計の財布が両端から締まっていく構造になっている。

さらにサプライチェーンへの影響が見逃せない。中東航路を経由する貨物の迂回コストは、運送会社にとってじわりと効く。個々の取引では小さく見えても、年間で積み上げると巨大な数字になる。FT試算の1兆ドルという数字は、こうした積み上げを含んだ試算らしい。

トランプ政権が軍事的圧力を維持している間、この消耗は続く。外交的な出口が見えなければ、エネルギーコストの高止まりは恒常化する可能性がある。そしてGDPへの影響は、今の数字よりさらに大きくなるかもしれない。

この先どうなる

焦点は二つ。ひとつは停戦交渉が実質的な進展を見せるかどうか。FTが「イラン停戦は生命維持装置」と表現するほど交渉は危うい状態にある。もうひとつはAIセクターの好調がいつまで損失を覆い隠せるか、という問いだ。AIバブルが冷え始めた瞬間、隠れていた経済損失が一気に表面化する展開も排除できない。ホルムズ海峡の緊張とウォール街の決算が、これほど直結して語られる時代になったということかもしれない。