ハンタウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船から、乗客が世界へ飛び立とうとしている。スペイン領カナリア諸島沖に停泊した船から日曜日に下船が始まり、月曜日をめどに乗客は航空機で各自の母国へ向かう予定だとニューヨーク・タイムズが報じた。致死率が最大40%に達するウイルスを抱えた人々が、何十もの国に散っていく——その絵面がじわじわと不気味だ。

致死率40%のウイルス、クルーズ船という密室で何が起きたか

ハンタウイルスは、感染した齧歯類(ネズミなど)の排泄物・唾液・尿を吸い込むことで人に感染する。ヒトからヒトへの直接感染は基本的に起きないとされているが、問題はクルーズ船という環境だ。換気系統を共有し、食事空間も限られた密閉空間で、どのルートでウイルスが持ち込まれたのかはまだ明らかになっていない。

発症すると「ハンタウイルス肺症候群(HPS)」を引き起こすケースがあり、急激な呼吸不全に至ることもある。早期の治療介入が生死を分けるが、初期症状が発熱・筋肉痛・倦怠感とインフルエンザに似ているため、見落とされやすいのが怖いところだった。

カナリア諸島から世界各地へ——追跡できるのか

「船がスペインのカナリア諸島沖に停泊した後、日曜日に小グループの乗客と乗組員が下船した。当局者によると、月曜日にかけて人々は自国へ飛行機で帰国する予定だという。」(ニューヨーク・タイムズ)

下船は小グループ単位で段階的に行われているというが、そのまま国際線に乗り込むとなると、検疫の実効性には疑問符がつく。クルーズ船の乗客は多国籍であることがほとんどで、今回も数十カ国に分散する可能性が高い。感染経路の追跡という意味では、WHOや各国の保健当局が情報共有をどれだけ迅速に進められるかにかかっている。

カナリア諸島は欧州とアフリカの接点に位置し、国際的な航空ハブでもある。そこを起点に感染者が散らばった場合、クルーズ船集団感染の輪郭を後から描き直すのは相当な労力になるだろうと、感染症専門家の間では懸念されていた。

この先どうなる

当面の焦点は、下船した乗客全員の健康状態が各国の保健当局に正確に共有されるかどうか。症状が出ていなくても経過観察が必要な人数はかなりの規模に上るとみられる。また、船内でのウイルス侵入経路の特定も急がれる。食材?港での積み込み作業?それとも乗客が持ち込んだのか——答えが出るまで、同様のリスクは他の船でも消えない。今後数週間、各国からの「クルーズ船帰国者の発症報告」が相次ぐかどうかが、事態の深刻さを測るバロメーターになりそうだ。