ロシア軍東部戦線停滞の深刻さが、あらためて数字で浮かんできた。開戦から3年以上が経過したいま、ロシアが1週間に実効支配を広げる距離は、多い地区でも数キロメートル程度。歩兵が前進する速度は「事実上ゼロ」に近いと言っても過言じゃないらしい。ニューヨーク・タイムズが報じた内容を追いながら、何がここまで戦況を縛っているのか確かめてみた。
ドローン1機が変えた機甲部隊3000両の方程式
ロシア軍がこれほど前進できない最大の要因は、ウクライナドローン戦術の進化にある。数年前まで、ドローンは「偵察の補助」程度の扱いだった。それがいまや、第一線から後方兵站まで戦場全域を24時間監視・攻撃できる主役に化けている。
戦車が林から出た瞬間、上空の小型FPVドローンが照準を合わせる。随伴する歩兵も、別のドローンが追いかける。これでは大規模な機甲突破作戦を立案しても、実行できる環境じゃない。ロシア軍はソ連時代から引き継いだ「縦深突破」の教義を持っているが、ドローンはその前提を丸ごと壊した格好だ。
「ロシア軍はいまだ根本的な問題を解決できていない。ドローンが至る所に存在する中で、いかにしてウクライナ東部で大きな前進を実現するか、という問題だ」(ニューヨーク・タイムズ)
ロシア側もただ黙って被害を受けているわけではなく、電子戦装備でドローンの通信を妨害しようとしている。ただしウクライナ側もその妨害への対策を重ねていて、技術競争は一方的に終わっていない。消耗戦膠着の正体は、実は「ドローンvs電子戦」のいたちごっこでもある。
前線が動かないと、停戦交渉は何を基準にするのか
戦場の膠着は、外交テーブルにも直接影響してくる。停戦交渉で「現在の前線を境界線にする」という案が浮上したとき、どちらの陣営にとっても「もう少し押せば有利になる」という誘惑が消えない。前線が動かないほど、その誘惑は逆に大きくなる――という逆説がある。
欧州各国はこの膠着を「ロシアが体力を回復している時間」と見ており、再軍備への圧力はむしろ強まっている。NATO加盟国のGDP比2%防衛費目標は、以前は「努力目標」の色合いが強かったが、いまや3%を議論する国まで出てきた。対露制裁も追加・延長が繰り返されており、長期化は既定路線に見える。
プーチンが当初想定したとされる「数日で首都制圧」の電撃戦シナリオとは、もはや別の戦争が続いている。消耗戦膠着がこのまま続けば、ロシア国内の経済・人口への負荷も無視できなくなっていくだろう。
この先どうなる
短期的に前線が大きく動く可能性は低い。ウクライナドローン戦術はさらに精度を上げており、ロシア軍が電子戦・対ドローン装備で追いつくには時間がかかる。一方、ウクライナ側も大規模反転攻勢を維持できる兵力と弾薬の補給が課題で、「どちらが先に限界を迎えるか」という消耗合戦の様相が続く見通し。停戦交渉は複数のルートで水面下の接触が続いているとされるが、前線が動かない以上、双方が妥協点を受け入れるタイミングはまだ見えてこない。欧州の再軍備と制裁長期化は、この膠着が解けない限り加速し続けるとみておいた方がよさそうだ。