ホルムズ海峡が「開いても終わらない」——サウジアラビア国営石油企業アラムコがそう警告したのは、世界の石油市場にとってかなり嫌な知らせだった。米国はイランからの外交的返答を待ち続けているが、仮に交渉が成立して海峡が正常化したとしても、供給網の傷はそう簡単には塞がらないらしい。
アラムコが示した「数ヶ月」という現実の重さ
Bloombergが報じたアラムコの見解によれば、石油サプライチェーンの混乱は海峡の開通後も数ヶ月単位で継続するという。その理由は三つの層が重なっているからだ。
まずタンカーの保険料。中東水域を通るリスクは保険会社の査定に直結し、いったん急騰した保険料はリスクが消えたからといってすぐには下がらない。次に迂回ルートのコスト。アフリカ南端を回る航路に切り替えた船舶は、距離にして約7,000キロメートル余分に走ることになり、その燃料代と時間コストは荷主に転嫁される。そして精製設備の稼働調整。供給が止まったり不規則になったりすると、製油所は受け入れスケジュールを組み直す必要があり、元のペースに戻るまでにそれなりの時間がかかる。
「US Awaits Iran Reply as Aramco Says Hormuz Opening No Quick Fix」(Bloomberg, 2026年5月10日)
この見出しが示す通り、外交解決がゴールではなく、解決後に始まる別の戦いがあるってことだ。
日本の輸入原油9割が通る海峡で何が起きているか
日本を含むアジア各国にとって、ホルムズ海峡は選択肢ではなく生命線に近い。中東産原油への依存度は輸入全体の約9割に達しており、代替ルートや代替産地への切り替えは机上では語れても、短期間での実行は現実的ではない。
原油価格の高止まりは、ガソリン代・電気代・物流費というルートで一般家庭に浸透していく。今すぐ家計に響くわけではないが、「気づいたら高くなっていた」という静かな侵食がこういう局面で始まる。アラムコが「数ヶ月」と言った意味は、その侵食期間が思ったより長いということだ。
アラムコのサプライチェーンに関する警告は、石油業界の内輪の話ではない。エネルギーを輸入に頼る国すべてに、時間差で届く話だった。
この先どうなる
外交交渉の行方次第では、正常化が早まる可能性はある。ただしアラムコの見立てが正しければ、たとえ5月中に合意が成立したとしても、原油価格の長期混乱が完全に解消されるのは秋以降にずれ込む計算になる。日本政府が備蓄放出や産油国への追加交渉に動けるかどうか、そのタイミングが問われてくる。市場が一番嫌がるのは「見通しが立たない状態の長期化」であり、現在はまさにその局面に差し掛かっているといっていい。