習近平が将軍を信頼できなくなっている――13年間、国家の威信を懸けて鍛え上げた人民解放軍のトップたちが、次々と失脚している。しかも粛清された中には、核戦力を束ねるロケット軍の司令官まで含まれていた。

ロケット軍トップ失脚が暴いた「腐敗の連鎖」

ニューヨーク・タイムズの報道によれば、問題の根は腐敗にある。昇進と引き換えに賄賂が飛び交い、装備調達では不正が横行した。習近平が自ら選び抜いたはずの将校たちが、実は腐食した梯子の上にいたわけだ。

人民解放軍の粛清腐敗問題がこれほど厄介なのは、スキャンダルで終わらないからだろう。ロケット軍は中国の核ミサイル戦力を直轄する部隊。そのトップが失脚した事実は、「発射命令が本当に届くのか」という指揮系統への疑念と直接つながってくる。

「習近平は13年間、米国に対抗できる軍事力を構築してきた。しかし中国軍が強大になればなるほど、自ら選び抜いたはずの将軍たちへの信頼は薄れていった。」(ニューヨーク・タイムズ)

軍を大きくするほど、疑う将軍が増える。これはかなり皮肉な構造で、習近平にとっては最悪のジレンマじゃないかと思う。

「核のボタン」を握る指導者が、指揮官を信じられないとき

台湾有事のシナリオでは、作戦の成否は指揮官への委任と信頼がカギになる。ところが今の習近平は、将軍たちを疑いながら軍を動かさなければならない立場にある。実際、腐敗摘発を恐れた将官が報告を歪めたり、問題を隠蔽したりすれば、最高指導者に届く情報そのものが信用できなくなる。

核抑止の観点からも話は複雑だ。抑止が機能するには、「報復する意志と能力がある」と相手に信じさせる必要がある。ロケット軍の失脚・腐敗が繰り返し報じられれば、米国やその同盟国は「中国の核指揮系統はどこまで機能しているのか」と問い始める。それが抑止の信頼性を静かに削っていく。

インド太平洋の安全保障を考える上で、これは見過ごしにくい変化だった。

この先どうなる

習近平は粛清を続けながら、同時に軍の近代化も止めるわけにはいかない。矛盾を抱えたまま走り続けるしかない状況で、次に失脚する将官が出れば、そのたびに「核指揮系統は大丈夫か」という問いが繰り返されることになる。米国側がこの亀裂をどう読むか、そして台湾・日本など周辺国の防衛計画にどう織り込まれていくか。しばらく目が離せない。