ハンタウイルスで乗客が死亡したクルーズ船。問題は、その事実が判明したとき、すでに数十人が船を離れていたことだった。AP通信が報じたこのケース、感染症アウトブレイクの歴史が「最も危険なパターン」と繰り返し示してきた展開が、また始まろうとしている。
致死率38%なのに、ワクチンも治療薬もない
ハンタウイルスは、感染したげっ歯類の排泄物や体液を吸い込んだり触れたりすることで感染する。人から人への感染は基本的に起きないとされているが、致死率は最大で約38%に達するらしい。数字だけ見れば、エボラ出血熱と同じ土俵に上がってくる水準だ。
厄介なのは、手を打てる手段が限られていること。現時点で承認されたワクチンは存在せず、有効な治療薬もない。感染を防ぐには「げっ歯類に近づかない」という原始的な対策がいまだに最前線に立っている。
「保健当局は、乗客の一人がハンタウイルスで死亡したクルーズ船から下船した数十人の追跡を進めている。ハンタウイルスは、感染したげっ歯類との接触によって広がる、まれだが致死率の高い疾患だ。」(AP通信)
クルーズ船という環境は、実はげっ歯類の侵入リスクがゼロではない。港に停泊するたびに荷物や物資が積み込まれ、ネズミが紛れ込むケースは歴史的にも報告されてきた。今回どのルートでウイルスが船内に持ち込まれたのか、その経路解明も急務になっている。
潜伏期間8週間という「時限爆弾」の怖さ
今回の追跡が難しい理由は、ハンタウイルスの潜伏期間にある。感染から症状が出るまで、最長で8週間かかることがある。つまり、今日まったく元気に見える人が、2か月後に突然重症化する可能性を否定できない。
下船した数十人はすでにそれぞれの日常に戻り、家族と過ごし、職場に行き、公共交通機関を使っている。保健当局が接触者を特定して連絡を取り、健康状態を確認するまでの時間との戦いが続いている状況だ。クルーズ船感染症アウトブレイクの過去のケースを振り返ると、この「時間差」が被害を広げた例は一度や二度ではない。
ただし、繰り返しになるが、人から人への感染は基本的に確認されていない。接触者を追跡しているのは、同じ感染源(げっ歯類)に触れた可能性がある人を把握するためであって、下船者から周囲への二次感染を防ぐためではない。ここは混同しないほうがいいポイントだった。
この先どうなる
保健当局の最優先事項は、下船した数十人の所在確認と健康モニタリングの継続だろう。潜伏期間が最大8週間ある以上、追跡は短期間では終わらない。船内のげっ歯類駆除と感染経路の特定も並行して進むはずだ。
ハンタウイルスのワクチン開発は研究段階にあり、承認までの道のりはまだ長い。今回のケースが国際的な感染症サーベイランスの強化につながるかどうか、WHO や各国保健機関の動きが次の焦点になってくる。クルーズ船という「移動する密閉空間」が感染症リスクとどう向き合うか、業界全体への問いにもなりそうだ。