UAE パキスタン人追放が静かに、しかし大規模に進んでいる——理由の説明もなく、だ。ニューヨーク・タイムズが報じたこの動きの背後に見えてきたのは、パキスタンが米・イラン仲介という「禁じ手」に踏み込んだことへのアラブ側の反発だった。

160万人の生活基盤を直撃する「無言の圧力」

UAEにはパキスタン人労働者が160万人以上在留している。湾岸諸国全体で見れば推計900万人規模。その送金収入はパキスタンGDPの約8%を占めており、外貨不足に喘ぐ国家財政にとっては事実上の生命線といっていい。

今回の追放劇で引っかかるのは「無言」という点だ。当局から具体的な理由が示されないまま、労働者たちが次々と国外へ送り返されているという。個々の法令違反ならまだわかる。だが集団的・組織的な規模となれば、それはもう政治的メッセージだろう。

「パキスタンが米国とイランの仲介に動く中、アラブ首長国連邦との関係が悪化。パキスタン人労働者たちは今、大量に送還されていると語っている。」(ニューヨーク・タイムズ)

UAEはアブラハム合意でイスラエルと国交正常化を果たし、対イラン強硬路線の旗手として湾岸の秩序を支えてきた国だ。そのUAEにとって、「イランと米国の橋渡し役」を名乗り出たパキスタンは、同盟の外側に出たと映ったとしても不思議はない。

仲介外交というギャンブル、パキスタンに勝算はあったか

パキスタンがこの局面で動いた背景には、深刻な経済危機がある。IMF融資の条件履行を迫られながら、外交的存在感を示すことで国際的な信用を取り戻したい——そんな計算が透けて見える。イスラム世界の大国としての立ち位置を使い、核外交の仲介者として名乗りを上げるのはひとつの戦略ではある。

ただ、UAEとサウジアラビアという資金の出し手を刺激するリスクを、パキスタン側がどこまで織り込んでいたかは疑わしい。湾岸出稼ぎ労働者送金という国家の屋台骨を人質に取られた形になっているのが、今の状況だ。

労働者一人ひとりにとっては、国家間の地政学など関係ない。突然の帰国命令で職を失い、家族への仕送りが途絶える——それが現実として起きている。

この先どうなる

パキスタンが米・イラン仲介から手を引けば、UAEとの関係修復への道が開かれるかもしれない。だが核合意交渉が大詰めを迎える局面で、簡単に「仲介役降板」とも言いづらいのが現状だろう。一方、追放が長期化すれば送金収入の激減がパキスタン経済をさらに圧迫し、政治的選択肢を狭める悪循環に入る可能性もある。UAEが「無言の圧力」をどこまでエスカレートさせるか、そしてパキスタンが仲介姿勢を維持するかどうか——この2点が今後の分岐点になりそうだ。