ハンタウイルス アンデス株が、クルーズ船の船上で初めて人から人へと広がった——WHOがそう認定したのは2025年4月下旬のことだった。オランダ船籍の豪華クルーズ船MV Hondiusで死者3名を含む5件の感染が確認され、乗客・乗員約150名が28か国から乗り込んでいたこの船は、今や国際的な感染追跡の震源地になっている。

4月24日、セントヘレナ島で数十名が下船——その後の足取りが消えた

問題の発端は、船がセントヘレナ島に寄港した4月24日にある。この時点ではまだアウトブレイクが公式に確認されておらず、乗客の一部が通常通り下船した。その「数十名」の現在地が、今も把握しきれていないらしい。

アンデス株の潜伏期間は最長6週間。4月24日から数えると、6月初旬まで新たな発症者が出る可能性が残る。WHOが接触確認を急いでいるのはそのためで、すでに少なくとも12か国の当局が自国民の追跡を始めたと報じられた。カナダ、デンマークなどが含まれているという。

「Five cases have now been confirmed, including three deaths, following an outbreak on the Dutch vessel MV Hondius」——BBC / WHO

MV Hondiusはアルゼンチンのウシュアイアを4月1日に出発し、5月10日にスペイン・カナリア諸島への到着が予定されている。運航するOceanwide Expeditionsは南極・南米方面のエクスペディションクルーズを専門とする会社で、今回の航路もそのルートだった。

アンデス株が「ふつうのハンタウイルス」と決定的に違う点

ハンタウイルスと聞くと、ネズミの糞や尿から吸入して感染するイメージが強い。実際、ほとんどの株はそうやって広がる。ところがアンデス株は違う。濃厚な人から人への接触でも感染することが複数の事例で記録されており、今回の船上感染も「人→人」の経路が疑われている。

WHOは「Covid-19のようなパンデミックの始まりではない」と明言した。感染には「close, intimate contact(近距離での濃密な接触)」が必要で、空気感染や飛沫での拡散は確認されていないからだ。ただし、船内という閉鎖空間で長期間にわたって接触が続いていた乗客・乗員の動向は、まだ全貌が見えていない。

MV Hondius クルーズ船に乗っていた人物の追跡は、現在進行形の話だ。12か国から始まった接触者リストは、今後さらに増える可能性がある。WHO 感染追跡の網がどこまで届くか、これから数週間が分岐点になる。

この先どうなる

潜伏期間の上限である6週間が過ぎる6月初旬まで、新規感染者の報告が続くリスクはゼロではない。WHOはアウトブレイクを「封じ込め可能な規模」と見ているようだが、下船後の乗客全員が特定されない限り、その評価は暫定的なままだ。各国の保健当局が乗客リストを照合し、接触者の健康観察を完了するまで、少なくとも数週間は続報が出続けるだろう。アンデス株の「人から人へ」という特性が改めてクローズアップされたことで、今後の感染症対策においてクルーズ船の検疫ルール見直しを求める声も出てきそうな情勢だ。