食料価格高騰が3年ぶりの水準に達した——その引き金が戦場ではなく「輸送コスト」だったとしたら、少し意外じゃないか。Bloombergが2025年5月8日に報じたところによれば、世界の食料価格指数は3年ぶりの最高水準に到達。背景にあるのはイラン戦争コストの膨張と、ホルムズ海峡をめぐる緊張の高まりだった。

ホルムズ海峡1本で、世界の食卓が揺れる

ホルムズ海峡は原油だけの問題ではない。中東経由の穀物・食用油の輸送ルートも同じ海域を通る。緊張が高まるたびに保険料と迂回コストが跳ね上がり、それがそのまま小麦粉や食用油の値段に乗ってくる。今回はそこにイランの戦費による財政圧迫が重なり、穀物・食用油・乳製品が連鎖的に上昇するという流れができあがった。

調べてみると、特にダメージが大きいのは中東と南アジアの輸入依存国だとわかった。エジプト、パキスタン、バングラデシュでは、食費が家計所得の40〜60%に迫る水準まで来ているらしい。日本の感覚だと想像しにくい数字だが、収入の半分が食べることだけで消えていく状況を考えると、社会的な張り詰め方がまるで違う。

「Food Prices Rise to Highest in Three Years on Iran War Costs」— Bloomberg, May 8, 2026

ホルムズ海峡輸送リスクが現実の摩擦コストとして機能し始めているのが、今回のポイントだろう。原油価格が動かなくても、「通れるかどうかわからない」という不確実性だけで輸送会社は保険料を積み増す。その分が食料価格に転嫁されていく。見えにくいが、確実に起きているメカニズムだ。

2011年の記憶——食料高騰が社会を動かした前例

食料価格の急騰が社会を揺さぶった前例は、遠い話ではない。2011年のアラブの春も、小麦価格の高騰が民衆の不満に火をつけた一因だったと言われている。チュニジアもエジプトも、最初の怒りは「パンが買えない」という切実な話から始まった。今、エジプトの食費負担が所得の40〜60%に迫っているというデータを見ると、あの頃との距離感が縮まってきているように映る。

もちろん当時とは政治状況も違うし、SNSの拡散速度も違う。ただ、腹が減った人間の怒りは、どの時代でもそう変わらない。戦場から数千キロ離れた市民の食卓が、地政学リスクの最終的な請求書を受け取っているという事実は、重く受け止めておく必要がある。

この先どうなる

イラン戦争コストが続く限り、ホルムズ海峡周辺の不確実性は消えない。食料価格の高止まりも、短期間での解消は見込みにくいのが現状だ。注目すべきは、国際通貨基金(IMF)や世界食糧計画(WFP)が輸入依存国への緊急支援を強化するかどうか。そしてエジプトやパキスタンの国内政治が、この物価上昇にどこまで耐えられるか。小さな火種が大きな社会変動につながるかは、次の3〜6か月の食料価格の動きにかかっているかもしれない。