FRB政策膠着——この言葉が、5月8日のウォール街に静かな緊張を走らせた。4月の米雇用統計が発表された直後、PGIMフィクスト・インカムのシニア・ポートフォリオ・アドバイザー、マイケル・コリンズはブルームバーグ・サーベイランスで端的に言い切った。「この雇用統計はFRBの膠着状態を決定づけた。当面、政策は据え置きを意味する」と。

コリンズが見た「二つの火」——利下げも利上げも詰んでいる

雇用が崩れていない。これが問題のすべてといってもいい。失業率が低水準を保ち、非農業部門雇用者数が市場予想を外さなければ、FRBが利下げに踏み切る根拠は薄くなる。「景気が悪い」から金利を下げるのが利下げの文法だとすれば、今の雇用市場はその文法を許さない。

一方で、トランプ政権が敷いた追加関税の影響は物価に静かに浸透しつつある。輸入コストが上昇し、それが小売価格に転嫁されれば、インフレ再燃は現実のシナリオになる。そうなれば利上げ論が息を吹き返す。雇用が堅調だから利下げできない、物価が上がりそうだから利下げできない——二方向から締め上げられた格好だ。

「4月の雇用統計はFRBの膠着状態を決定づけ、当面は政策を据え置くことを意味する」——マイケル・コリンズ(PGIM Fixed Income)

コリンズの分析が市場関係者の耳に刺さったのは、「どちらかの火が消えるまで動けない」という読みを明確にしたからだろう。4月雇用統計はその膠着を解くカードではなく、むしろ封印するカードだったということになる。

ウォーシュ新議長の影と、長期金利のざわめき

もう一つ、見落とせない変数がある。ケビン・ウォーシュ氏のFRB議長就任が視野に入ってきた。パウエル現議長の任期満了をにらみ、市場はすでに「次の顔」を意識した値動きを始めている。新議長が就任するまでの空白期間、あるいは就任直後の政策スタンス変化への読み——こうした不確実性が重なると、長期金利は方向感を失いやすい。

実際、10年物米国債利回りは雇用統計後も落ち着かない動きを見せた。利下げ期待が削がれれば債券価格は下がり、利回りは上昇圧力を受ける。ただしリスク回避の流れが強まれば安全資産としての米国債に買いが入り、逆に利回りは低下する。どちらの力が勝つかは、次の経済指標次第という状態が続いている。

日本や欧州の資本市場にとっても、FRBの次の一手は無縁ではない。ドル円の方向性、日銀の利上げ判断、欧州中銀の追加緩和余地——すべてがFRBの動向と連動している。膠着が長引くほど、世界中の中央銀行の選択肢も狭まっていく。

この先どうなる

次の焦点は5月のCPI(消費者物価指数)と、6月のFOMC声明文になる。関税の影響が物価統計に本格的に表れてくれば、FRBは「インフレ抑制 vs 景気維持」というトレードオフを再び突きつけられる。コリンズが言う「膠着」が解けるとすれば、そのタイミングは物価か雇用か、どちらかが大きく動いた瞬間だ。ウォーシュ氏の就任動向も含め、夏前の数週間は相当な情報密度になりそうな気配がある。