トランプ習近平首脳会談まで、北京には珍しい空気が漂っているらしい。「静かな動揺」とでも呼ぶべき雰囲気だ。震源地はイランである。中国はイランにとって世界最大の原油輸入国であり、制裁網をかいくぐる形でエネルギー取引を続けてきた。その事実が今、習近平の手元で時限爆弾に変わりつつある。
習近平がイランで握られた「交渉カード」の重さ
トランプ政権はイランへの「最大限の圧力」を再び解禁している。核協議が暗礁に乗り上げた局面で、ワシントンが北京に向ける視線は当然こうなる——「お前たちがイランに金を流しているんじゃないか」。
首脳会談の場でトランプがイランとの取引停止を直接要求すれば、習近平は二つの痛みを同時に引き受けることになる。一つはエネルギー調達ルートの喪失。もう一つは、対米貿易交渉における譲歩圧力の増大。中国イラン原油取引という一枚のカードが、貿易と地政学の両方に効いてくる構図だ。
「北京は、重大なトランプ・習近平首脳会談を前に、未解決のイラン紛争を巡る不安を募らせている」(Bloomberg、Rebecca Choong Wilkins)
Bloombergのレベッカ・チョン・ウィルキンスが報じたのは、この会談が単なる関税の話し合いではないという点だった。米中地政学リスクが中東と直結し、習近平の選択肢が一つひとつ狭まっていく過程が透けて見える。
「原油ルート」を失えば、中国国内に跳ね返る
中国がイラン産原油に頼る理由はシンプルで、安いからだ。制裁によって割引価格で調達できるイラン原油は、中国の独立系精製業者「ティーポット」を中心に安定した需要を形成してきた。ここを断ち切られると、代替調達コストが跳ね上がり、国内のエネルギーコストに直撃する。
タイミングも悪い。中国経済はすでに内需低迷と輸出圧力の二重苦を抱えており、エネルギーコストの上昇は製造業の競争力にじわじわ効いてくる。首脳会談でイランを「売る」わけにもいかず、かといって関係を守ったまま対米関係を改善するのも難しい。習近平が会談に乗り気でないとすれば、そういう事情があるんじゃないかと読める。
この先どうなる
首脳会談の結果によっては、中国がイランへの関与を「表向きだけ」縮小する可能性もある。形だけの譲歩でトランプを満足させ、水面下では取引を継続する——過去の制裁回避で使われてきた手口だ。ただしトランプ政権は今回、セカンダリーサンクション(第三国制裁)の締め付けを強めており、そのやり口が通じるかどうかは怪しい。イランが今後も協議を拒絶し続ければ、米国の圧力は北京に向かう比重をさらに高めるだろう。米中地政学リスクが中東を経由して増幅する、そういう展開を想定しておく必要がある。会談の「成功」を誰が定義するか、そこに注目したい。