IEEPA大統領権限の解釈をめぐる法廷闘争が、また一つ大きな節目を迎えた。2026年5月8日、米連邦貿易裁判所はトランプ大統領が発動した10%全世界一律関税を「違法」と断じた。米最高裁が以前の課税を無効とした判決から数ヶ月。司法が再び行政の腕を押さえた格好だ。

IEEPAという「魔法の杖」を裁判所が折った

トランプ政権がこの関税の根拠に使ってきたのが、緊急経済権限法(IEEPA)だった。国家緊急事態時に大統領が貿易を規制できると定めた法律で、1977年に制定された。政権はこれを「関税を自由に設定できる白紙委任状」のように運用してきたわけだが、裁判所はその読み方を認めなかった。

ここが興味深いところで、IEEPAの条文には「輸入を規制する」という文言はある。ただ「関税率を大統領が一方的に決定できる」とは明示されていない。裁判所はまさにその隙間を突いた形で、「議会が与えていない権限を大統領が使った」という判断に至ったらしい。

「米国のドナルド・トランプ大統領が課した10%の全世界一律関税が、連邦貿易裁判所によって違法と判断された。これは最高裁が以前の課税を無効とした数ヶ月後のことである。」(Bloomberg、2026年5月8日)

米国の権力分立という観点から見ると、これは「関税戦争」以上の問題になっている。貿易政策の主導権が大統領にどこまで許されるのか、その線引きが実質的に司法によって引き直されつつある。

日本・欧州への影響と、喜べない理由

今回の判決は、日本や欧州、アジアの輸出国にとって一時的な追い風になる。全世界一律10%の関税が無効となれば、対米輸出コストが下がる計算だからだ。特に自動車や電子部品などで対米輸出が大きい日本にとっては、見逃せない動きだった。

ただし「喜べない理由」もある。トランプ政権が即時控訴に動く可能性は高く、上訴審では別の判断が出るかもしれない。さらに政権は並行して、IEEPAとは別の法的根拠を探し始める可能性もある。関税そのものが消えるというより、法的な根拠の「掛け替え」が起きるシナリオも十分ありえるわけで、輸出企業が今すぐ計画を変えるのはリスクを伴う。

米連邦貿易裁判所の判断は確かに重い。だが終着点ではなく、長い法廷闘争の中の一幕として捉えておくのが現実的だろう。

この先どうなる

次の焦点は控訴審の行方だ。トランプ政権は連邦巡回控訴裁判所に即時上訴するとみられ、そこで覆れば再び関税が復活する。最終的には再び最高裁まで持ち込まれる可能性も否定できない。一方、議会側ではIEEPAの大統領権限を明文で制限する立法の動きも出てきており、法律そのものが書き換えられるというシナリオも浮上している。関税という経済政策の道具が「誰の手に」あるのかを決める戦いは、当分続きそうだ。