米イラン停戦崩壊という言葉が現実の輪郭を帯び始めた2025年5月——砲火と停戦宣言が同じ海域で同時に存在するという、外交史上ほぼ前例のない状況が生まれている。米軍はアメリカの艦船への攻撃に対抗してイランの軍事目標を叩いたと発表。それでもトランプ大統領は「停戦は維持されている」と繰り返した。この矛盾、どう受け取ればいいのか。
「停戦中に攻撃」——誰が終わりを定義するのか
問題の核心はシンプルで、しかも厄介だった。停戦を「破った」と認定する権限が、どちらの側にも自分たちにあると思っている点だ。米側は「報復攻撃は自衛行為であり停戦の枠内」と解釈し、イラン側は「先に手を出したのはアメリカ」と主張する構図。こうなると「停戦」という言葉は事実の記述というより、政治的なポジション取りになってくる。
「米国はアメリカの艦船への攻撃に対抗して、イランの軍事目標を攻撃したと発表した。ワシントンとテヘランは和平案を協議中だと、イラン当局者は述べた。」(The New York Times, 2026年5月8日)
興味深いのは、攻撃と交渉が並行して動いているという点だ。イラン当局者によれば、水面下では和平案の協議が続いているらしい。火を消しながら火を放っているような状態——これを「強圧外交」と呼ぶべきか、単なる混乱と呼ぶべきかは、まだ判断できない段階だろう。
ホルムズ海峡で火花が散ると、世界の原油価格が反応する理由
ホルムズ海峡は幅の最も狭い部分で約33キロ。それでも世界の原油海上輸送量の約20%がこの水道を通過している。サウジアラビア、イラク、クウェート、UAEの原油輸出がここに依存しており、イランが通航を妨害するだけでエネルギー市場は即座に反応する構造になっている。
今回の米軍によるイラン軍事目標への攻撃報道後、エネルギー市場と同盟国の間では明らかに緊張が走った。ホルムズ海峡緊張が長引けば、日本を含むアジア各国の原油調達コストに直接はね返ってくる話でもある。「遠い中東の話」で済ませられない理由がここにある。
また、イラン和平交渉が成立しないまま小競り合いが続くケースでは、革命防衛隊による民間タンカーへの嫌がらせや、代理勢力を通じた間接攻撃が活発化するパターンが過去にも見られた。2019年のタンカー攻撃事件がその典型だった。今回も似た「グレーゾーン」での応酬が続く可能性は十分ある。
この先どうなる
イラン当局者が「和平案を協議中」と発信し続けているのは、外交的な出口を残しておくサインとも読める。トランプ政権も「停戦は維持」という立場を崩していない以上、両国とも全面衝突を望んでいないというのが現時点での見立てだ。ただし、次の「報復」が何らかの形でエスカレートすれば、その計算が一気に崩れるリスクはある。ホルムズ海峡緊張が今後どのレベルまで高まるか——イラン和平交渉の進展と並行して追い続けるべき局面は、まだしばらく続きそうだ。