人民銀行の預金準備率引き下げ、0.5ポイント分で放出される資金は約1兆元——日本円で20兆円規模だ。3月20日、中国人民銀行はこの決定を発表し、同じ日に北京は民間企業の市場参入障壁を撤廃する新政策も打ち出した。二枚看板を同日に並べたのは、それだけ状況が切迫しているからじゃないかと読める。
1兆元を放出しても埋まらない「信頼の穴」
問題は資金量より、その資金が実際に動くかどうかだった。中国経済が今抱えているのは「お金がない」という話ではなく、「お金を使う気になれない」という空気の問題らしい。不動産市場の低迷は底打ちの気配がなく、消費者物価は弱含みが続く。外資は静かに撤退を進めていて、民間企業家も次の投資に慎重になっている。
北京が今回、流動性供給と民間経済支援策をセットにしたのは、この「二重の停滞」を同時に解除しようとしたからだろう。金融緩和でお金を流しながら、規制緩和で投資先を用意する。絵としてはきれいに見える。
「中国の中央銀行は水曜日、銀行の預金準備率を50ベーシスポイント引き下げると発表した。これにより約1兆元(1390億ドル)の長期流動性が放出される。当局は民間経済を支援するための一連の措置を打ち出した。」(Reuters)
ただ、現場の空気は政策文書ほど素直じゃない。アリババへの罰金、テンセントへの規制、滴滴(ディディ)の上場中断——この数年で民間セクターが受けた打撃は、一本の通達で消えるものじゃないからだ。起業家が「今度こそ大丈夫」と判断するには、言葉より時間と実績が要る。
アリババ・テンセントが刻んだ傷は、まだ癒えていない
中国の民間経済活性化政策は今回が初めてではない。2023年にも同様の方針が打ち出され、市場は一時反応した。だが投資と消費の本格回復には至らなかった。今回の政策が過去と違う点があるとすれば、デフレ圧力の深刻さと外資流出の規模が、当時より明らかに大きいことだ。
習近平政権は「共同富裕」という旗を掲げながら、民間資本の活力も同時に必要としている。この矛盾を抱えたまま、金融政策で景気を動かそうとしている——そう見ると、今回の政策は「処方箋」というより「時間稼ぎ」に近いかもしれない。
この先どうなる
中国の流動性供給策とデフレ対策が実効性を持つかどうかは、向こう2〜3四半期の消費・投資データが判定することになる。人民銀行が追加の準備率引き下げに踏み切る可能性もあるし、財政出動を組み合わせた「総合パッケージ」を次の段階で打ち出してくるシナリオも排除できない。市場が本当に見ているのは、政策の数字より、民間企業家が実際に動き始めるかどうかだ。アリババやテンセントが再び積極投資に転じる日が来れば、それが「回復の本番」を告げるシグナルになるだろう。