米中台湾抑止力に、静かな亀裂が入りつつある。イランへの軍事作戦で消費されたPAC-3迎撃ミサイルとTLAM(トマホーク巡航ミサイル)の在庫回復に「年単位」を要するとされる中、北京の軍事アナリストたちがこの状況を冷静に、しかし確実に好機と読んでいるらしい。
「跛行する巨人」——中国アナリストが名付けた米国の今
ニューヨーク・タイムズが報じた中国側の見立ては、かなり率直だった。
「米国はイランとの戦争によって台湾をめぐる対中抑止力を弱体化させており、トランプ大統領との来たる首脳会談で北京に交渉優位をもたらしている」
「跛行する巨人」という表現がじわじわと広まっているという。強さは否定しない。ただ、片足を引きずっている——そのニュアンスが、北京の現状認識をよく表していると感じた。二正面に戦力を分散させた超大国が歴史上どうなってきたか、中国の戦略家たちはそこを突いてきている。
PAC-3在庫不足がリアルに台湾有事シナリオを変える
問題は抽象論じゃなく、ミサイルの本数の話だ。PAC-3は1基の製造に相当な時間とコストがかかる。イラン戦争で消耗した在庫が仮に数百発規模だとすれば、ロッキード・マーティンの現行生産ラインでは補充に2〜3年かかるとの試算もある。その空白期間、もし台湾海峡で危機が起きたとき、米軍が即応できる弾薬の絶対数が足りないシナリオが現実味を帯びてくる。
イラン戦争兵器消耗の余波が極東に波及するという構図は、一見遠回りに見えて実は単純だ。弾薬は世界をまたいで融通できない。どこかで使えばどこかが減る。それだけのことが、地政学の力学を動かしている。
トランプ政権は現時点で台湾防衛へのコミットメントを明言し続けているが、「曖昧戦略」のもとでその言葉の重みは常に解釈次第だった。北京がその隙間を計算に入れているのは間違いないだろう。習近平にとって今回の首脳会談は、台湾問題・関税・技術規制を一括して交渉テーブルに乗せる絶好のタイミングでもある。
この先どうなる
米国防総省が産業基盤の増強を急いでいるのは事実で、議会でも兵器生産ラインへの追加予算が議論されている。ただ、工場の生産能力は数週間では変わらない。向こう1〜2年、PAC-3在庫不足という現実は消えないとみていい。
その間に習近平とトランプが何を取引するか。台湾への武器売却凍結と引き換えに関税緩和、なんて最悪のシナリオも完全には否定できない状況になってきた。北京が「戦略的窓」と呼ぶ期間が実際に何をもたらすか、首脳会談の結果が最初の答え合わせになりそうだ。