ハンタウイルスに感染した乗客が次々と搬送されるなか、1人の男性がスイスへ静かに帰宅していた。船の外でも感染者が確認されたのは、これが初めてだ。

探検クルーズ船MVホンディウスで起きている集団感染は、アルゼンチンを出港してから約1か月のあいだに死者3人を出す深刻な事態に発展している。カーボベルデ沖で乗客3人が緊急搬送され、英国人とオランダ人の2人は重篤な状態でオランダへ。ドイツ人1人は容体が安定しているものの、搬送便が遅れているという。

スイス帰国者の陽性確認、WHOが発表した経緯

WHO事務局長のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス氏は声明でこう述べた。

「患者は、船の運航会社から乗客に送られた健康上のイベントに関するメールに返信したことで把握された。下船後にスイスへ帰国した男性のハンタウイルス陽性がチューリッヒで確認され、現在は病院で治療を受けている」

注目したいのは、この患者が自発的に名乗り出たという点だ。運航会社のオーシャンワイド・エクスペディションズが乗客へ送った連絡メールへの返信という形だったらしい。言い換えれば、接触追跡がなければ見逃されていた可能性がある。下船した乗客が世界各地へ散らばっている以上、水面下に潜伏感染者がいないとも限らない。

米国2州でも3人を監視下に、現時点で症状なし

米国ではジョージア州が2人、アリゾナ州が1人を健康監視下に置いている。いずれも現時点では無症状で、両州の保健当局は「感染の兆候は見られない」としているが、経過観察は続く。

ハンタウイルスはげっ歯類の排泄物などを介して人へ感染し、重症化すると肺や腎臓を激しく傷める。人から人への通常感染は起きにくいとされているが、密閉された船内という環境でこれだけの死者が出ている点は、専門家の間でも異例と受け止められているようだ。MVホンディウスは現在、スペインのカナリア諸島へ向けて航行中で、カーボベルデ付近への3日間の停泊を経てようやく動き出した格好だ。

この先どうなる

WHOはすでに各国の保健当局と連携を始めており、下船した乗客全員の追跡が急務となっている。船がカナリア諸島に到着すれば、残る乗客への検査や当局による聴取が本格化するとみられる。スイスの症例が「氷山の一角」か「孤立事例」かは、今後数日以内の検査結果が答えを出すはずだ。クルーズ旅行後に体調の変化があった場合は、自己判断で放置せず医療機関に相談するのが得策だろう。