Apple Gemini交渉の報道が出た瞬間、IT業界で飛び交った言葉は「また2社か」だったらしい。BloombergはAppleがGoogleのGemini AIをiPhoneへ直接組み込む協議を進めていると伝えた。世界で20億台以上稼働するiPhoneが、Googleの生成AIのフロントエンドになるかもしれない——その話だ。
年200億ドルの契約を「小手調べ」にする可能性
AppleとGoogleの関係は今に始まったことじゃない。SafariのデフォルトをGoogleに固定する契約だけで、年間およそ200億ドルが動いている。それだけでも規格外の数字なのに、iPhone上でのAI統合となると話の規模が変わってくる。
スマートフォンのアシスタント機能、文章生成、画像解析——これらをGeminiが一手に担えば、ユーザーの行動データとGoogleの広告エンジンが直結する。Appleにとっては生成AI領域での出遅れを一気に埋めるカードになりうるし、Googleにとってはスマホ市場での存在感を検索以外の軸で確保できる。両社の利害が珍しくきれいに重なっている図だ。
「AppleはアルファベットのグーグルとGemini AIをiPhoneに組み込む交渉を行っていると、ブルームバーグが月曜日に報じた。」(Reuters / Bloomberg, 2024年3月18日)
iPhone AI統合という言葉を聞くと「Siriの強化版」を想像しがちだが、今回の話はそれより踏み込んでいるようだ。Geminiをシステムレベルで組み込むなら、Siriと競合するのか補完するのか、Appleがどこに線を引くかが読めない。そこが各社アナリストの見方が割れているポイントでもある。
Google反トラスト訴訟が「最大の障壁」になる理由
ただ、この交渉には大きな地雷が埋まっている。米司法省はGoogleの検索独占を巡る反トラスト訴訟を現在進行中で争っている。その訴訟の核心は「Appleへのデフォルト検索料が競合排除を生んでいる」という主張で、まさに両社の関係そのものが標的になっている状態だ。
そこへiPhone上でGeminiが支配的なAIポジションを取るとなれば、司法省が「検索の次はAIでも独占か」と動くシナリオは十分ありうる。Google反トラスト訴訟の判決次第では、交渉が合意に至っても実装前に司法の壁にぶつかる可能性があるわけで、タイミングが悪いといえば相当に悪い。
一方でAppleはMicrosoftのCopilot統合やOpenAIとの噂も飛び交うなど、複数のAI企業と並行して接触しているとも言われている。Geminiが本命なのか、交渉を有利に進めるための当て馬なのか、外からは判別しづらい段階だ。
この先どうなる
交渉の帰趨を左右するのは、おそらく2つの変数だ。一つは米司法省の反トラスト訴訟の行方——Googleに不利な判決が出れば、AppleはGemini採用の政治リスクを嫌ってOpenAIやMeta AIに梯子を切り替える判断もしうる。もう一つはApple Intelligence自体の完成度で、今秋以降にiOS向けの独自AI機能が想定以上の評価を得れば、外部AI依存を急ぐ必要がなくなる。どちらに転んでも、2024年後半のスマートフォンAI競争は「Appleがどこと組むか」を軸に動きそうだ。20億台のフロントエンドを巡る綱引き、まだ序章にも差し掛かっていない。