ホルムズ海峡の覚書が、原油市場を動かした。米国がイランに対して正式な文書を提示し、世界の原油輸送量の約20%が通過するこの海峡の開放を求めていると、ブルームバーグが5月7日に報じた。ニュースが流れると原油価格は再び下落に転じ、外交交渉への期待が市場に一時的な安堵をもたらした格好だ。

覚書の中身——制裁緩和と「通航保証」の交換条件か

覚書の内容は現時点で公開されていない。ただ、制裁緩和と引き換えにホルムズ海峡の通航保証を求める枠組みとみられており、米国イラン外交交渉としては踏み込んだアプローチになる。これまで封鎖の脅威が市場の「恐怖プレミアム」として価格を押し上げてきた分、外交的な動きが確認されただけでも価格が反応したのは理解できる。

問題はイラン側の回答がまだ確認されていない点で、しかも厄介な構造がある。ホルムズ海峡の実効的な管制権を握っているのは、イラン政府よりも革命防衛隊だ。政府高官が覚書に応じたとしても、革命防衛隊が動かなければ封鎖リスクはそのまま残る。外交文書の「格」と現場の「力」がズレているという、この手の交渉でよく見るやつだった。

「Oil Drops Again as US Offers Memo to Iran in Bid to Open Strait」――Bloomberg, May 7, 2026

原油価格下落 2026年の文脈で言えば、今年に入ってからの価格変動はホルムズ情勢に敏感に連動してきた。封鎖懸念が高まるたびに価格は跳ね上がり、外交的なシグナルが出るたびに落ちる——その繰り返しがここ数か月のパターンだった。今回もそのサイクルの一コマとも読める。

楽観できない理由——市場が「警戒モード」を解除しない背景

市場参加者の反応を見ると、価格は下がったものの、完全にリスクオフに振れているわけではない。楽観と警戒の間で揺れているという表現がぴったりで、それはある意味で正直な反応だろう。覚書を提示した、それだけでは何も確定していないのだから。

イランがこれまでの交渉でどう動いてきたかを振り返ると、条件をのむ前に時間を稼ぐのが常套手段だった。革命防衛隊の動向、最高指導者ハメネイ師の意向、国内保守派の圧力——これらが揃わない限り、政府が覚書に前向きな姿勢を示しても実効性には疑問符がつく。交渉が決裂すれば原油の再騰は避けられないという見方が根強く残っているのも、こうした背景があるからだ。

この先どうなる

焦点はイランの公式回答が出るタイミングと、その内容だ。仮に条件付きの合意に向けた動きが出れば、原油価格下落の流れは続く可能性が高い。一方で革命防衛隊が強硬姿勢を維持したり、交渉が膠着すれば市場は再び緊張モードに戻るとみられている。米国イラン外交交渉の行方は、エネルギー市場だけでなく中東全体の安定にも直結する。ホルムズ海峡 覚書という一枚の文書が、本当に何かを動かすかどうか——答えが出るまで、市場の神経戦は続きそうだ。