IIF米国債需要が失速しているという警告が、世界の債券市場に静かな衝撃を走らせた。国際金融協会(IIF)が明らかにしたのは、外国人投資家が米国債の購入ペースを落とし、ドル資産から他の選択肢へと資金を動かし始めているという事実。「世界一安全な資産」とされてきた米国債に、これだけはっきりした異変が起きるのは久しぶりのことらしい。

欧州・アジアの機関投資家が動かした「分散」の引き金

背景を探ると、主に二つの要因が浮かび上がってきた。一つはトランプ政権の関税政策。相互関税の発動と撤回が繰り返されるなかで、米国の政策予測可能性そのものへの不信感が広がった。もう一つが財政赤字の膨張。議会予算局の試算では、米国の債務残高は今後10年でさらに数兆ドル単位で膨らむ見通しで、「誰が買い支えるのか」という問いが現実味を持ち始めている。

欧州の年金基金やアジアの中央銀行が動いたと伝えられる。具体的な売り額は非公表の部分も多いが、外国人投資家 米国債売りの傾向はデータに着実に現れてきた。米財務省の統計でも、海外勢の保有比率は数年来の低水準に近づいている。

「投資家がドル資産から分散するなかで、米国債に対する海外からの需要が失速しつつある」(IIF、Bloomberg報道)

ドル資産分散の流れが加速するとき、最初に痛みを感じるのは米国の借入コストだ。外国勢の買い需要が細れば、財務省は国内投資家や連邦準備制度に頼るしかなくなり、金利を上げて資金を集めざるを得なくなる。その余波は住宅ローン、企業の設備投資融資、自動車ローンまで広がっていく。

「安全資産」の看板が揺らぐとき、金利はどこまで上がるか

市場参加者がいま気にしているのは、10年物米国債利回りの動向。4月に一時4.5%を超えたあたりで、外国人投資家の動揺が観測されたとも伝えられた。仮に5%台が定着するようなら、新興国への影響も避けられない。ドル建て債務を抱える国々は、返済負担の増大という別のリスクに直面する。

一方で、米国債が即座に基軸的地位を失うかといえば、代替手段はまだ限られているのも現実。ユーロ建て資産や日本国債には規模と流動性の面で壁があり、金や仮想資産への資金移動も部分的なヘッジにとどまっている。「分散」と「離脱」の間には、まだ相当な距離がある——というのが多くの市場関係者の見立てだったりする。

この先どうなる

IIFの警告が今後の政策論争に与える影響は小さくないだろう。米財務省が海外勢の需要動向を注視しているのは間違いなく、関税政策の出方次第で需要の回復も揺り戻しも起こりうる。目先の注目点は、5月以降に予定される大型国債入札での海外勢の応札動向。そこに買いが戻ってくれば「一時的な揺らぎ」で済むが、不参加が続くようなら話は変わってくる。ドル一極体制の変容は急激には起きない。ただ、今回のIIFレポートは「静かな転換点」の記録として、後から振り返られる可能性がある。