DeepSeek資金調達の交渉相手が、まさかの国家だった。フィナンシャル・タイムズが5月6日に報じたところによると、中国の国家系半導体ファンド「大基金(ビッグファンド)」が、AI新興企業DeepSeekへの巨額出資ラウンドをリードする方向で交渉を進めているという。DeepSeekは今年1月、米国の最先端モデルに匹敵する性能を格安コストで叩き出してシリコンバレーを震撼させた、あの会社だ。
大基金がAIソフトに手を伸ばした「異例」の理由
大基金はこれまで、SMIC(中芯国際)など半導体製造インフラへの投資で知られてきた。チップを焼く側、つまりハード寄りのファンドというのが市場の共通認識だった。それがAIソフトウェア企業への直接出資に動いたとすれば、相当な路線変更になる。
背景にあるのは米国の対中半導体輸出規制の強化だろう。NvidiaのH100はおろか、その廉価版H800すら手が届きにくくなるなか、中国は「使えるチップが限られるなら、そのチップで最大の成果を引き出すソフトを国家が持てばいい」という発想に舵を切りつつあるらしい。ハードウェアの調達が詰まるほど、ソフトウェアの内製化が国策として浮上してくる構図だ。
「中国の国家支援チップファンドがDeepSeekの巨額資金調達ラウンドをリードする交渉を行っている」(フィナンシャル・タイムズ、Bloombergが引用)
DeepSeek側の事情も読んでおく必要がある。1月の衝撃デビュー以降、DeepSeekには世界中から注目が集まったが、それは同時に米議会や安全保障当局の視線も意味する。国家資本が入ることで、DeepSeekは資金面での安定を得る一方、「国家に管理された企業」というレッテルも引き受けることになる。
米中AI覇権、「規制の穴」をソフトで埋める戦術
米中AI覇権という文脈で見ると、この動きはかなり整合的に見える。米国がチップ輸出を締め上げるほど、中国はソフトウェアとモデル開発に国家リソースを集中させる。DeepSeekが証明したのは、潤沢なGPUがなくても一流のモデルは作れるという事実だった。その実績を持つ企業を国家が囲い込めば、規制の効果を相当程度に打ち消せる可能性がある。
シリコンバレーがDeepSeekショックから立ち直り切っていないうちに、北京はそのDeepSeekを「国家プロジェクト」に組み込もうとしている。投資家目線でも無視できないニュースで、オープンソース路線を取っていたDeepSeekが国家管理下に入ることでモデルの公開方針が変わるかもしれない、という懸念も出始めているらしい。
この先どうなる
交渉はまだ「進行中」の段階で、出資額や持ち分比率などの詳細は明らかになっていない。今後の注目点は三つ。一つ目は大基金の出資が正式決定するかどうか。二つ目は、それを受けて米国が追加制裁や輸出規制の対象をAIソフト企業にまで広げるかどうか。三つ目はDeepSeekのオープンソース戦略が維持されるかどうかだ。国家資本が入ったモデルを世界が「中立なオープンソース」として使い続けるかどうか、そこに最大の摩擦が生まれそうな予感がある。