トランプ・ルーラ首脳会談が実現するとしたら、そのタイミングはかなり計算されている。AP通信がホワイトハウス高官の発言として伝えたところでは、トランプ大統領がブラジルのルーラ大統領をホワイトハウスに招き、経済と安全保障をテーマに協議する見通しだ。ルーラといえば、就任以降BRICSの枠組みを積極的に活用し、習近平との会談も重ねてきた指導者。その人物をトランプが自分のホームに呼ぶ、というのがどういう意味を持つのか、少し立ち止まって考えてみた。

GDPで世界9位のブラジルに、米中がこぞって手を伸ばしている理由

ブラジルは南米最大の経済圏で、GDPは世界9位。大豆・鉄鉱石・原油と、サプライチェーンにとって無視できない資源が集まる国でもある。中国はここ数年、インフラ投資と貿易拡大を通じてブラジルとの関係を着実に深めてきた。ルーラ政権もそれを歓迎してきた経緯がある。

一方のトランプ政権は、関税政策を梃子に南米各国との交渉を進めてきた。ブラジルへの関税圧力が高まれば、輸出依存度の高い農業・製造業セクターが直撃を受けかねない。その「痛み」を緩和する見返りとして、安全保障面での協力を求める――そういう交換条件が水面下で動いているとみるのが自然だろう。

「ホワイトハウス高官によると、トランプ大統領はブラジルのルーラ大統領を招き、経済と安全保障に関する会談を行う予定」(AP通信)

ブラジル・米中・地政学という三角形で見ると、ルーラにとってもこの会談は悪い話じゃない。国内では高インフレと財政赤字への批判が続いており、米国との関係改善は外資誘致や貿易条件の安定につながる。多極外交を掲げながら、米国ともパイプを持っておく。それがルーラの計算らしい。

トランプが「関税」を武器に南米で仕掛ける外交とは

今回の会談で特に注目したいのが「安全保障」の議題だ。経済の話なら分かりやすいが、安全保障となると範囲が広い。南米での中国の軍事的プレゼンス拡大を牽制する狙いがあるとすれば、トランプ政権がブラジルに何らかの防衛協力や情報共有の枠組みを打診する可能性もある。ただ、ルーラはこれまで軍事的な同盟関係には距離を置いてきた。どこまで歩み寄るかは、会談後の共同声明の「文字数」が物語るかもしれない。

もう一点、見落とせないのがBRICSとの兼ね合いだ。米国への接近を深めれば、BRICSの仲間——中国やロシアからの視線は厳しくなる。ルーラが「どちらでもない」というポジションを維持できるかどうか、その綱渡りが続く。

この先どうなる

会談が実現した場合、焦点は共同声明に「中国」という言葉がどう登場するか、あるいはまったく登場しないか、そこに絞られそうだ。トランプ政権としては、ブラジルを引き込む実績をつくるだけでも外交上の得点になる。ルーラとしては、具体的な関税緩和の数字を引き出せるかが国内向けの評価を左右する。双方が「勝った」と言える形に落とし込む――そういう「両方が言いたいことを言える記者会見」になる可能性が高い。ブラジル米中地政学の行方は、この会談一つで決まるわけじゃないが、潮目を読む上では無視できない一手になりそうだ。