イラン核合意が、崩壊まで72時間という水域に入ったかもしれない。テヘランが合意への疑念を公式に示し始め、これに呼応するようにトランプ氏が新たな強硬条件を突きつけた。外交的な窓が閉まりつつある今、世界のエネルギー市場も固唾をのんで見守っている。

トランプの「完全解体」要求——交渉相手への最後通牒か

今回の核交渉で焦点になっているのが、トランプ氏が持ち出した「核プログラムの完全解体」という条件だ。従来の交渉では核活動の「凍結」や「縮小」が議題だったが、完全解体はそれとは次元が違う要求といっていい。

「トランプ氏が『イランの核プログラムの完全解体を含まない合意はあり得ない』と新たな脅しをかける中、イランは合意に疑念を示しているもようだ。」(The New York Times, 2026年5月6日)

トランプ氏は自身のプラットフォームで「イランが動かなければ、われわれが動く」とも述べており、言葉の圧力は着実に上がっている。イラン側からすれば、核開発能力を丸ごと手放すことは体制の根幹に触れる問題で、そう簡単に飲める話じゃない。テヘランが疑念を「公式に」示したというのは、交渉の水面下で限界が来ている証拠ともとれる。

ホルムズ海峡封鎖なら原油20%が止まる——数字でみるリスク

この交渉が単なる外交案件にとどまらない理由は、地図を一枚見ればわかる。ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ幅約50キロの水道で、世界の原油海上輸送量の約20%がここを通る。日本にとっても、中東原油の主要ルートがこの海峡だ。

イランは過去にも、制裁圧力が高まるたびに「海峡封鎖」をカードとして示してきた経緯がある。実際に封鎖が起きれば原油価格は即座に跳ね上がり、エネルギーコストの上昇が製造業や物流に波及するのは避けられない。今回の交渉決裂は、ガソリン価格や電気代という形で一般市民の生活に届く可能性もある。トランプ爆撃令やイスラエルとの応酬が続く中東情勢と重なって、ホルムズ海峡封鎖リスクは今夏で最も高い水準にある、という見方も出始めている。

この先どうなる

複数の専門家が「次の72時間が交渉の生死を分ける」と口をそろえる局面だが、現実はもう少し長い時間軸でみておいたほうがよさそうだ。イランの最高指導者ハメネイ師は過去、土壇場で交渉を復活させた前例もある。一方、トランプ政権の「完全解体」要求は国内向けの政治メッセージという側面も否定できず、交渉チャンネルが完全に閉じているわけでもない。
ただし、楽観論の根拠は薄い。テヘランが公式に疑念を示した事実は重く、次に注目すべきはイラン外務省の発表と、トランプ氏のSNS投稿のトーンの変化だろう。封鎖には至らなくても、イランによる海峡通過への「嫌がらせ」的な行動が増えると、原油市場は反応する。イラン核合意の行方は、外交の問題であると同時に、エネルギー価格と生活コストの問題として追い続ける必要がある。