イラン原油輸出制裁が、いよいよ「最後の出口」まで塞ぎにかかっている。ニューヨーク・タイムズが報じた内容によれば、テヘランは「痛みには耐えられる」と強気の姿勢を崩していないが、現実の数字はそれとは違う方向を向き始めているらしい。
中国という「抜け穴」が塞がれていく理由
制裁強化後、イランの原油輸出を支えてきたのは事実上、中国向けの非公式ルートだった。制裁対象外の仲介業者を挟み、船舶のAIS(自動識別装置)を意図的に切った「ゴーストタンカー」が複数確認されていたのは業界では周知のことだったらしい。
ところが米国はここ数か月、金融制裁と海上監視の二枚カードを同時に切ってきた。具体的には、イラン産原油を扱う中国の中小精製業者(いわゆる「ティーポット精製所」)への二次制裁適用を強化し、それに加えて海上での積み替え監視網を拡大。結果、買い手側の中国企業がリスクを嫌って距離を置き始めたというのが今回の報道の核心だ。
「テヘランは痛みに耐えられると主張しているが、イランの原油はまもなく行き場を失う可能性がある」――The New York Times
「行き場を失う」という表現が刺さる。輸出できなければ、増産しても貯蔵タンクが溢れるだけ。実際、イランの陸上タンクと洋上浮体備蓄の稼働率は既に高水準にあるとされており、物理的な限界も近づいている。
原油価格への波及――「減少」が「高騰」を呼ぶ逆説
一見すると「イランの輸出が減れば市場に出回る原油が減って価格上昇」という単純な話に聞こえる。ただ、現在のイランの実質輸出量はOPECの公式統計には反映されていないグレーな数字が多く、市場がそれを「見えないバッファー」として折り込んできた側面があった。
そのバッファーが突然消えれば、供給側の計算が一気に狂う。サウジアラビアやUAEが増産余地を持っているとはいえ、政治的判断が入るため即応性は限られる。米国の封鎖政策が中東全体の供給バランスを揺さぶるシナリオは、エネルギー市場のトレーダーたちが今最も警戒しているパターンのひとつだ。
もうひとつ見落とせないのが地政学リスクプレミアムの話。イランが「追い詰められた」と判断した場合、ホルムズ海峡での行動をエスカレートさせる可能性が出てくる。封鎖する側とされる側が同じ海峡を巡って駆け引きする、という構図は価格に二重のプレッシャーをかける。
この先どうなる
焦点は三つ。①中国の「ティーポット精製所」が二次制裁をどこまで恐れるか、②イランが交渉のテーブルに戻るタイミングを探るか強硬路線を維持するか、③OPECプラスが供給穴を埋めに動くかどうか、だ。
中国・イラン石油ルートが本当に細れば、原油価格は現在の水準から10〜15ドル上振れするとの試算も一部アナリストから出始めている。NYT報道が「可能性がある」という表現にとどめているのは、まだ流動的だからこそ。ただ、「耐えられる」と言い続けるテヘランの声が、このまま強がりで終わるとは限らない。次の動きは数週間以内に出てくるんじゃないかと、市場は足音を聞き始めている。