需要破壊という言葉が、数字とともに現実の話になってきた。2026年5月5日、エネルギー調査大手ライスタッド・エナジーの上級副社長ホルヘ・レオンがブルームバーグのインタビューで発した警告は、原油市場の関係者の間で静かに波紋を広げている。イラン戦争の長期化によって、世界の原油市場では価格高騰が消費そのものを殺す局面に入ったというのが、彼の見立てだった。
ライスタッド・エナジーが見た「消費が死ぬ」ライン
需要破壊とは何か、改めて確認しておきたい。価格が上がり続けると、企業は輸送コストを圧縮し、工場の稼働を落とし、消費者は暖房や移動を我慢するようになる。やがて需要曲線そのものが崩れ始め、価格が下がっても消費が戻らないフェーズへと移行する。1970年代のオイルショックで西側経済が凍りついたのと似た構図だ。
レオンが指摘したのは、その入り口にいまいるということ。イラン戦争がどこまで続くかの見通しが立たない中、企業や消費者はエネルギーの使い方を根本から変えようとしつつある。これは短期の節約とは違う話で、需要曲線が恒久的に下がる可能性をはらんでいる。
「イランとの戦争を受け、世界の原油市場で需要破壊が始まった。価格が高止まりした場合、追加供給が市場に流入する可能性についても注目されている」(Bloomberg / Rystad Energy、2026年5月5日)
つまり今、原油市場は需要と供給の両面から同時に圧力を受けているということになる。これはどちらか一方が動く通常の相場変動とはかなり違う局面で、価格の予測がしにくくなるということでもある。
非OPECの追加供給という「もう一つの火種」
レオンはインタビューでもう一点、見逃せない指摘をしていた。価格が高止まりした場合、非OPEC産油国からの追加供給が市場に流入してくる可能性があるというものだ。
米国のシェールオイルやブラジルの深海油田、カナダのオイルサンドなど、採掘コストが高い非OPEC勢は、価格が一定以上になれば増産に動けるポジションにある。供給が増えれば価格は押し下げられ、OPECが生産調整で守ってきた価格帯が崩れるシナリオも出てくる。需要破壊で消費が減り、非OPECの供給が増えるとなれば、原油価格は高騰から一転して急落する展開だって否定できない。ライスタッドエナジーが「両面が同時に動く」と言ったのは、まさにそこを指していたんじゃないかと思う。
この先どうなる
イラン戦争がいつ収束するか、現時点では誰にも読めない。戦闘が長引けば需要破壊は深化し、原油消費の回復には相当の時間がかかる可能性がある。一方でホルムズ海峡周辺の供給リスクと、非OPEC増産という下押し圧力が綱引きを続ける展開になりそうだ。OPECが協調減産で対応するのか、それとも内部の亀裂が先に表面化するのか。ライスタッドエナジーが発した警告は、「価格が上がれば大丈夫」という従来の読み方が通用しない局面に入ったことを示唆している。エネルギーコストに敏感な製造業や物流業にとっては、次の一手を急ぐ必要があるかもしれない。